2017年08月 / 07月≪ 12345678910111213141516171819202122232425262728293031≫09月

2013.09.16 (Mon)

放浪息子15巻


放浪息子15
(2013/8/28)
志村貴子

男の子になりたい女の子と、
女の子になりたい男の子は、
一緒に歩いて、一緒に立ち止まって、
そうして、ここまできた。

しゃんと伸びた彼らの背中。
涙こらえて見送ろう。


【More・・・】

*13・14巻の内容をふまえて書いています。
ご注意ください。

変わってはいけないのだと思っていた頃がある。
それは当時の意識としては家族や友人のためだった。
同じ場所に変わらずに在り続け、
変わっていく彼らが振り返ることのできる定点でいることが、
自分の存在価値なのだと、変化を拒んでいた。
けれど小学生の頃の自分から随分離れてしまった高槻さんが、
「裏切り」という言葉を使うのを見ていて、
私が拒んでいたものは彼女と似ていたのではないかと思った。
高槻さんが裏切っていると感じているのは、
同志だったはずの二鳥くん、というだけでなく、
むしろ過去の、本当に切実に男の子になりたかった過去の自分で、
涙を流さずにはいられないのは、
その裏切りを撤回することが絶対にできないからなのだと思う。
男の子になりたいという思いは彼女にとって自然なものだったのに、
もはやそう思わないことが今では自然になっている。
着たいものを着る、というのはつまり、
自分の中にある一番自然な形で在ろうとすることだったはずで、
もしも今女の子の格好をする自分に拒否感がない自分を否定して、
過去への義理から男装をすれば、それこそ裏切りになってしまう。
二鳥くんの手を握って泣く高槻さんを見ていて、
彼女の悲しみ、そのどうしようもなさに、胸が詰まった。

高校生活を過ごす中で、
二鳥くんと高槻さんはあの頃と今、
そていこれからについてそれぞれ考えている。
身体の方はほぼ完成形になったようで、
二鳥くんの方は当然ながら女装に無理が出始めている。
まだギリギリバレないくらいだけれど、
首周りや足を出す服はもう厳しいのがよく分かる描き方で、
相変わらず身体を描くのが上手いなあと思いながら、
「自分に自信があった」と述懐する二鳥くんに、
それは多分大体みんな分かってたよと言いそうになった。
マコちゃんが呆れるのがよく分かる。
二鳥くんは女の子より可愛くて、女装が似合う容姿で、
だからこそそれを着ることの罪悪感が薄いのは、
見ていればすぐに分かるようなことだったのだけれど、
本人はそういう自分をあまり自覚していなかったのに少し驚いた。
ただそういう部分も含めて今までを振り返り、
結局自分がどこを向いているのかを確認するために、
二鳥くんが小説の形で過去と未来をない交ぜに書くことは、
この子にとって必要なことだったんだろうと思う。
それにしても、お母さんやマコちゃん、高槻さんなんかの気持ちを、
勝手だと分かりながら、客観的に考えて書いて、
しかもそれを本人に見せるなんて、相変わらず大胆だなあ。

マコちゃんが男の人を好きになる男の子であることは、
小学生時代から本人にも自覚があって、
高津さんが男装するにしろ女装するにしろ、
多分男の人を好きになる女の子であることも、
外から見ていればなんとなく分かっていたけれど、
その辺り二鳥くんに関してはこの最終巻まで見えなかったように思う。
女の子の格好をしたいと願い、男を自覚しながら男の身体を煩わしく思い、
高槻さんやあんなちゃんを好きになる。
本人の言葉を借りれば「世間一般的にはぼくのほうがまちがって」いても、
二鳥くんの中にある色々な部分が一人の人間の中にあることは、
別段何の不思議もないことだろうと思う。
最後まで多分意識的に言及されなかったのは、
二鳥くんが女の子になりたい人なのかどうかという点が、
女の子の格好をすることとは全く別のベクトルの話だから。
これまでの付き合いを見ていると、
二鳥くんが本当にあんなちゃんを大事に思っているのが、
それはもうひしひしと分かるから、
この先もあんなちゃんと付き合っていくなら、
未来日記の中のセックスが現実の話になるのも多分そう遠くない。
その時、この子の中で定まっていないものがあれば、
あんな風に泣いてくれる彼女を傷つけることになるかもしれない。
それは嫌だなあとぼんやり思っていた者としては、
二鳥くんがあんなちゃんにはっきりと言えるようになったことが嬉しい。
そしてあんなちゃん可愛い。しかも男前素晴らしい。

千葉さんは二鳥くんと高槻さんの間の絆に対して、
ずっと疎外感を感じていたようだけれど、
二人が悩んできたことの核に一番近い場所で、
二人の背中を押したりしながら友達をやってきたのは、
千葉さんとマコちゃんだったように思う。
「デート」する二人を何のこだわりもなく素敵だと言ったこと、
どんな格好でも可愛いとか格好良いとか、
そういう肯定的な言葉を素直に言ってくれることが、
多分何度も二人の背中を伸ばしてくれた。
だからこそ、過去から離れた場所に立って迷うとき、
高槻さんは千葉さんの言葉を思い出すし、
二鳥くんは自分と向き合って書くことができるのだと思う。
千葉さんと二人だけでなく、ささちゃんも更科さんも、
この先物理的な距離はどんどん離れて行って、
お互いのことが分からなくなる時も来るかもしれない。
それでも、過去を裏切ったという思いに囚われたとしても、
その過去が今を支えてくれることもあるだろうし、
そこを足がかりにまた関係を始められるようなこともある。
できれば彼らの軌跡をずっと見ていたかったけれど、
そんな風に思って、この子たちに別れを告げることにしよう。

折角なので「ぼくは、おんなのこ」も読んでみて、
私小説風のフィクション、の先で、
二鳥くんはどんなものを書くようになるんだろうと、想像した。

スポンサーサイト

テーマ : 漫画 - ジャンル : アニメ・コミック


11:40  |  志村貴子  |  TB(0)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

Comment

コメントを投稿する


 管理者だけに表示  (非公開コメント投稿可能)

▲PageTop

Trackback

この記事のトラックバックURL

→http://acon6960.blog40.fc2.com/tb.php/537-115df744

この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
この記事へのトラックバック

▲PageTop

 | BLOGTOP |