2017年08月 / 07月≪ 12345678910111213141516171819202122232425262728293031≫09月

2014.08.15 (Fri)

武士道シックスティーン


武士道シックスティーン
(2010/2/10)
誉田哲也

相手を斬るためでなく、
より良く立つためだけでなく、
彼女たちは竹刀を握り向かい合う。

踏み抜ける一歩の先に、
共に見たい光景があるから。


【More・・・】

学外のクラブに特別所属せず習い事もしなかった小学生にとって、
本格的なスポーツや芸事との初めての接触は、
おそらく中学での部活動だろうと思う。
何かしらの部への所属が強制の場合も自由の場合もあれど、
部活をやる中学生にとってそれは学校生活の一部か、
ときには大半を構成する大きな柱になる。
それでも、中学から始めた者にとって時間は二年と少ししかない。
高校までいれても、合計は五年にも満たない。
就学前くらい小さなときからそれを生活に組み込んできた子とは、
圧倒的にかける時間が違う。飲み込む速さも量も違う。
どこにでもそういう言い方があるのかどうかは知らないけれど、
その積み重ねが違うことを揶揄したり自嘲する意味で、
特に個人競技には「部活○○」という言い方があったことを覚えている。
ただそれはおそらく単なる技術的・経験的な差の話ではない。
本人の努力次第で埋まることもあるその部分ではなく、
むしろその競技や鍛錬を自分の生活、
大きく言えば人生のどこに位置づけているのかという部分に、
自分と相手の違いを感じてその言葉は使われていた気がする。
部活は、どれだけ生活を費やしても、引退すれば、それで終わり。
その先があって、そこを見据えているのはごく一部の選手だけ。
そんなやさぐれた事実認識を二人の剣道にざっくりと斬り捨てられた。
そんなことは当時も分かっていて、その上でもっともっとと気持ちを燃やして、
強い相手に昂ぶったり、かつてない一打に心震わせた瞬間が確かにあった。
そこにはいつ始めたとかなんとかそんな下らない垣根はなかった。
部活動、そして16才の空気を存分に思い出させて貰った。

スラムダンクのときはバスケ、映画ピンポンで卓球、
そしてるろうに剣心のときは剣道部の部員が増えたらしい。
香織あたりからするとそういうきっかけでの入部は、
言語道断、門前払い、ぶった斬るぞ、となるのだろうけれど、
何かを始めるきっかけなんて基本的にはなんでも良くて、
早苗が日舞をやめてその結果として剣道を見つけたのも、
誰に文句を言われることではない。
それに留まらず、試合のスタイルから生活姿勢まで、
中盤までの香織が早苗に突っかかり続けるのを見ながら、
どうすればこの子の狭い世界を変えられるだろうかと、
小柴先生やお兄ちゃんと一緒に何度も気を揉んだ。
早苗は香織の押しつけに辟易しているのに、
問題を上手く言い表し、指摘する言葉を見つけられないために、
武蔵オタクだとか核心ではない部分で非難してしまうわけで、
香織が休部する辺りまでの二人の意思疎通のできなさは、
それぞれが抱える問題の相乗効果なのだと思う。
まあとはいえ7割は香織の方に非があると思うけれども。
桐谷先生もお父さんも香織の問題に気がついて、
厳しい稽古や行動で気づかせようとしていて、
ただそれは叩けば叩くほど負けん気と、
ついでに殺意を育ててしまう子には、多分逆効果だったんでしょう。
彼女には言葉と、それが届くようになるまで待ってくれる人が、
ずっと以前から必要だったのだと思う。出会えて良かったなJK武蔵よ。

一方早苗が抱えているのは本人というより家族の問題。
勝負に対する怯えを本人は自覚しているようだけれども
それでも勝てば嬉しいし、仲間の勝利を喜ぶこともできる。
他の部員や残った家族との関係もそれなりに良好にしていて、
一見早苗は特に問題を抱えているようには見えない。
でも「順当に負けた」なんていう風に敗北を捉えることは、
推薦組の選手たちの中で、一人そうではにない場所から始めて、
ここまできた彼女には似つかわしくないように思っていた。
父親や裁判のことが明らかにされるにつれて、
彼女は勝敗というよりも、負けることだけを恐れていると知って、
順当に…という言い方に対する違和感の実が分かった。
勝とうと足掻いて足掻いて、その結果負けることと、
負けるだろうと思って勝負して負けることは、多分全く別物で、
早苗は必死にやった結果負けて壊れるのが怖いから、
負ける準備を心の中にしてから、勝負に臨んでいたんでしょう。
だから、その結果負けても傷つかない。勝ったならまぐれ。
そういう姿勢を香織が見抜いていたとは思わないけれど、
勝利も敗北も正面から受け取らない雰囲気だけは、
敗北を死のように思っている彼女には分かったのかもしれない。
たたっ斬るとは言わなくても、確かに褒められた姿勢ではないと思うから、
家族の再結成とともに勝負に向き合えるようになった早苗が、
「勝ちます」とまで言った瞬間には頭をがしがし混ぜてやりたくなった。

東松女子剣道部はスポーツ推薦組も多数いる名門で、
そうすると部内でのせめぎ合いが激しそうだけれど、
部内の雰囲気は凜としてかつわりと和やかで、
香織のような困ったちゃんが入ってきても受容できるような、
そういう部の空気と人を作れているというだけでも、
小柴先生の顧問としての指導の力は凄いと単純に思う。
もちろん村浜部長や河合さんなどの先輩たち自身が、
2年かけて築いたものも香織たち1年生の確かな礎としてあって、
それを重く感じさせず、同じチームとして一列に並んでいる感じは、
自分が後輩だった頃、先輩になった後のことを思うと、
全くもってお見それしましたとしか言い様がない見事さだった。
自分以外全員敵で、勝たねば意味がないと思っていた香織が、
勝って勝ってその先に何があるのかを考えるに至ったとき、
もしもそういう風に一列で共に戦うチームの傍にいられなかったなら、
父親との距離が変化したとしても、剣道に戻ることはできなかっただろうと思う。
夏のインターハイ前後でダメになって、延々と迷い続ける香織を、
早苗も小柴先生も他の部員たちも、本当によく待ってくれたし、
そこに戻った香織もそのことをよく分かっているように見えた。
失したものは取り戻せないけれど、今からできることをするしかない、と
礼をする香織のそれは、あのときの土下座とは全く違う。
そんな香織と軽やかな早苗が三度相まみえる日が楽しみでならない。

周囲に目がいくようになってからの香織は、
なんだか別の意味で西荻、西荻言っているようで、
そして河合さんにトドメを刺された。
そわそわしながら、17才に進もう。

スポンサーサイト

テーマ : 読書感想 - ジャンル : 本・雑誌


13:49  |  誉田哲也  |  TB(0)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

Comment

コメントを投稿する


 管理者だけに表示  (非公開コメント投稿可能)

▲PageTop

Trackback

この記事のトラックバックURL

→http://acon6960.blog40.fc2.com/tb.php/582-43654990

この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
この記事へのトラックバック

▲PageTop

 | BLOGTOP |