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2014.08.25 (Mon)

漂泊の王の伝説


漂泊の王の伝説
(2008/3)
ラウラ・ガジェゴ・ガルシア

過ちが気づきとなり、
出会うことで人は変わり、
その間も志は生き長らえる。

王が行く道は、まさしく人のそれだ。


【More・・・】

運命を人の力の及ばないものとして定義し、
その上で生きることの意味なんてものを考え始めたら、
明るい結論に至れる人間はごく少ないだろうと思う。
未来がすでに決まった一本の道だと信じてしまったら、
選ぶこと、決断することの意味はなくなってしまう。
未来がどういう風に決まるのかの本当のところは、
それこそ人には今のところ知ることができないから、
そのことに寄りかかるようにして、
未来の可能性は無限だと人は繰り返すのだろうし、
それはいつも希望を掲げる行為なんだろうと思っていた。
けれど、過去現在未来全ての人間の歴史を表した絨毯が、
幾人もの心を壊しながら放浪する軌跡を追っていて、
普通に使われるその言葉が想定している範囲は、
実のとこそれほど広いものではないことに気がついた。
それは人一人の人生分さえもない、
精々がある決断と、そこから分岐する道分程度のものなんでしょう。
そうであるなら人はむしろ未来の可能性を区切るために、
可能性という言葉を掲げるのかもしれない。
無限というやつは人間には重すぎるから。
ジンが言う汚れゆえではなく、ただの人であったがゆえに、
悪人たちは絨毯に心を蝕まれたように見えた。

王子としてのワリード、少なくとも敗北を喫する以前の彼は、
本当に理想的な治世者の素質をもっていたのだろうと思う。
詩に対する強い執着を持っていたことで、
ハンマードの力を許容できず国を滅ぼす結果になりはしたけれど、
状況が違えばそれさえも王族の人間味として、
評価されるべき項目だったように思うから、
彼自身にとっては別として少なくともキンダ王国にとっては、
ハンマードとワリードの出会いは不運だったような気がする。
それがなければ、確かに至高の品たる絨毯は生まれなかったし、
ワリード自身が漂泊の中で出会いを重ねて変化し、
絨毯の力にさえ侵されない心を手に入れることもなかったけれど、
それはどちらも小さいとはいえ一つの国を荒野に変えることと、
等価以上の価値があるようにはどうしても思えなかった。
もちろん、ワリードがハンマードに憑かれなくとも、
国力はあらゆる面で落ちつつあったようだから、
他部族の侵攻に抗って結果を変えることはできなかったかもしれない。
それでも、一人の男を苛め殺し、家族を傷つけた罪と同時に、
ワリードには国を傾けたことを思い続けて欲しかった。
いや、思ってはいたのか。だからこそ絨毯を手にしたとき、
滅びた国の跡へ一人で向かう決断をしたのか。
だとしても、漂泊とその終幕がどちらもとても美しく重いものだったからこそ、
国に対する責任にも決着をつけるべきであるように思った。

などと言いつつ、王子、盗賊、砂漠の民、商人、と、
遍歴を重ねる度に知り、学び、変わっていくワリードの姿は、
あれだけ腐りかけていたことを思えば、
人が成長していく可能性の大きさに後ろ盾を貰うようだった。
使命として掲げているものがありながら、
何度もそれを脇に置いて腰を落ち着けようとすることは、
彼の人間的な弱さとして見ることもできるのだろうけれど、
自分で決めた使命から一心に絨毯を追い続けるよりも、
むしろそれはワリードを魅力ある人間にしているように思った。
多分彼は苦しみから逃げるためではなく、
過去のあとにある現在を受け止めようとするがために、
新しい場所に適応しようと、言うなれば自ら生きようとしたのだと思う。
一目見ての閃きのような恋にそのまま身を委ねるのではなく、
着実に信用を勝ち取り、ラクダを少しずつ増やし、
そうしてザーラへの求婚を計画するような男だったからこそ、
男が死んだかもしれないと半ば確信しながらも、
騙した男への復讐と更なる探索のために盗みまでやる彼女は、
ワリードと共に行くことを望んだのだろうし、
父親たちもそれを許して大事な娘を託したんでしょう。
それにしても路地裏で刃物で大の男を脅したことといい
盗みを見つかった時の清々しい命乞いの台詞といい、
漂泊の王の連れは、確かに相棒と言っても遜色ない麗人だった。

子供たちが将来を思うように選べるようにと、
お金を用意しておいてやろうとしたハンマードにとっては、
王子からの嫉妬、編纂室での仕事、不可能な絨毯織りなどは、
それぞれどういう重みと意味をもった出来事だったんだろうと考える。
要所要所で簡潔に描写されてはいるけれども、
王にとって、息子たちにとって、間接的には王国にとっても、
大きな影響力をもつことになった男の内面は、
それほど詳しくは触れられていないから、
詩作の時や絨毯織りをしている時に何を思っていたのかは、分からない。
ただのちにジンたちがワリードに語ったことを併せると、
多分ハンマードは本当に市井の人だったのだろうと思う。
もう少し言い切る形なら、他人より特別な所などない男だった。
一人の女性を愛し、子供の将来を憂い、仕事に忠実で、
その一方で呵責する者を憎む心ももつような男。
でもそんな男は心ある詩を書き、世に二つとない絨毯を織った。
ジンたちがワリードを責める理由は、つまりハンマードの稀有さの核は、
特別ではないただの人間の中、その内側から、
森羅万象の真理に触れるような価値あるものが生じたことなんでしょう。
それはひいては、人類全体の可能性に対する莫大な積算になる。
詩作でも人間性においても敗北した王が、
漂泊の果てに選び取るものの可能性とその価値を信じて、
赤いターバンのジンは手を貸してくれたのではないかと思う。
おそらく人よりも真理に近い存在が、人を信じてくれたことが嬉しかった。

亡国の王が読んだ心ある詩とその姿に、
偉大な詩人は何を見ただろう。
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