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2014.09.15 (Mon)

運命の女の子


運命の女の子
(2014/8/22)
ヤマシタトモコ

命の意味や運命が決まるとしたら、
それは生まれ落ちた瞬間か、
発生したその時か。
あるいは死にゆくその日なのか。

彼女たちは、何と答えるだろう。

【More・・・】

自分と異なる者との接触は危険だ。
あらゆる意味で自分と同一の存在など在り得ないから、
人との出会いは常に異なる者との接触なのだけれど、
価値観や生まれ育ちでは説明できないような、
人間という同じカテゴリに属していることも疑ってしまうような、
そういう異質さを感じさせる者と相対することは、
自分や人間や大きくは世界に対する認識に、疑いの種を植え付ける。
美鳥と一対一で言葉を交わす彼女は、
その言葉の中に、瞳の中に、自分とは異なるものを見てしまった。
美鳥が犯した罪の重大さよりも、
こんな風な人間が存在するということそれ自体が、
目の前にいるのがただの丸腰の女子高生だということを忘れさせて、
彼女を怯えさせたのだろうと、一緒に寒くなりながら思った。
美鳥の異質さ、向き合う者に恐怖心を植えつけるその大元は、
人を殺したことやその計画の周到さの中に、
分かりやすい狂気を含んでいないことなのだと思う。
美鳥は宇宙の声がどうとか意味不明の言葉を話すわけでもなく、
人を殺すことを楽しんでいた風でもなければ、
殺した相手に何の気持ちも抱いていないということもない。
理由と感情があって、殺した。方法を練って、時機を見て、殺した。
その回路と手順の妥当さが、殺人という非尋常と溶け合っている。
手の震えを振り払って美鳥の前に戻る度胸は私にはない。

理由と感情があって、と書いてから本編を読み直してみて、
それらは確かにあるけれども、それがどういうもので、
どういう回路で彼女の中で動いているのかはどうも解らない。
美鳥が訳もなく恐ろしい得体の知れない化け物に見える原因は、
その辺りにもあるののかもしれないなどとも思った。
終盤の刑事との問答の背後で起きていることを出来るだけ冷静に見れば、
たとえば最初にホームレスのおじさんで「練習」したことは、
彼女が別に殺しに慣れた殺人鬼でも化け物でもなく、
人を殺したことなどない人間の少女なのだということの証左にも思える。
友人を落としたことは、自分が人を殺せる人間かどうかの確認で、
刑事が水を向けているように、哀れみゆえに航大をまず殺したのかもしれない。
そう考えることもできる。そう考えれば、不気味さが減る、
ということがないからこそ、美鳥は恐ろしいのだと思う。
文字で書けばごく真っ当な理屈に思えるけれど、
それを実際行っているときの美鳥を見てしまえば、
彼女の中にはそんな理屈が動作していないことがわかる。
そんな理屈で動いている人間は母親をバラして生ごみに出さないし、
同居している男の歯をバールで抜いたりもしない。
彼女はおそらくそんな「在り得る」理屈で動いていると解釈できるように、
順番と手段を決め、ぬかりなくそれを行ったのだと思う。
思いついてもそう出来る人間なんてそうはいないという意味では、
彼女は常軌を逸した、「無敵」だったと言えるかもしれない。
証拠隠滅が粗いことも、その後捕まるところまでが想定のうちで、
本当にこの後より良く生きることが出来ると信じているのなら、
それは、美鳥の中で、唯一確かに理解できる狂気だと思う。

内側に黒い種を植え付けるような「無敵」のあとに、
「きみはスター」を置くあたりに作為を感じながら、
続いて恋する少年少女たちの交差のお話を読んだ。
開は恋をして、公子もゆかりも恋をして、
まだ高校生だと言うのに人を好きになることの身勝手さを、
それぞれがちゃんと理解してさえいたように見えたのに、
彼らの三年間と、その到着点を思うと、
恋が恋愛になることはこんなにも難しいのだと改めて感じた。
公子は開の好意の理由を自虐的に断じているけれども、
その断定は開にとってあまりに悲しいものだったろうと思う。
たとえきっかけがそこにあったとしても、
それだけでちょっかいを出し続けるような人間では開はない。
ないからこそ、公子は開を好きにならずにはいられない。
でもこの時点の公子にはその自己矛盾に気づきながらも、
それを解く方法が分からなかったのではないかと思う。
最後の公子の表情にやられながらそんなことを考えた。
ゆかりが公子の傍にいることを望んだのは、
言葉にしてしまうと酷く歪んだ感情ゆえのように見えるけれど、
誰かの特別でありたいと願う、恋と呼ばれることがあるその気持ちは、
ゆかりのそれと大抵は同じようなものなのだろうと思ったりもする。
だとしても、特別な誰かの特別、という椅子を望むことは、
おそらく自分自身の価値をそのまま認められないところに根があって、
今の公子は、ゆかりの自分に似たそういう所を愛おしんでいるのかも、
などと今の公子は全く登場していないのに想像した。
いっそ三人で同窓会とかしたら、意外と良い関係に落ち着くかもしれない。

犠牲の大きさがそのものの価値や意味を決めるようなことは、
あってはならないし、ないと思いたいけれども、
差保子を取り巻く世界では呪によってそれが明らかにされているのだから、
呪われずに生まれてきて、生きている彼女にとっては、
自分を肯定することは本当に難しかっただろうと思う。
それでも理不尽な扱いに怒りを抱き、
国を動かす価値観の大元である人々の呪いそれ自体を、
下らないと断じることができるのは、
彼女の傍にいた人、おそらくは家族が、呪とは別のところで、
彼女の存在の価値を示し続けてきたからなのだろうと思う。
ほんの少ししか描かれていないけれど、
少女と少年の運命的な冒険は少女の家族に支えられている気がする。
そのことに呪いを失った世界で差保子が気付けたらいい。
とはいえ差保子にとって存在の意味というものが呪いだったように、
「保護」下にある小佐田さんを含めた呪人種にとっても、
生の意味はそれを与える立場にあるがためにこそ、
呪われた人々のように安易に定め信じることができない事柄だったのだと思う。
小佐田さんは生命に意味はないと言って差保子を祝福して去ったけれど、
海のにおいを知り、世界を見たいと思うのは、
存在の価値や意味を知りたいと願うことの表れであるような気がする。
世界は呪を失い、少年は呪に打ち克ち、少女は祝福された。
この後の世界が、呪の上書きとかそういう愚かな選択をしないことを祈る。

きらめいてときめく何かが始まってしまいそうな、
「運命の女の子」というフレーズで、
「無敵」から「不呪姫…」まで並べる辺り、流石です。

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テーマ : 漫画 - ジャンル : アニメ・コミック


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