2017年09月 / 08月≪ 123456789101112131415161718192021222324252627282930≫10月

2015.02.19 (Thu)

武士道セブンティーン


武士道セブンティーン
(2011/2/11)
誉田哲也

人を傷つけることも難しく、
まして斬ることなど決してできない竹刀。
礼の後それを握る手に込めるのは、
本当の殺意ではない何かであるはずだ。

香織と早苗と伶那だけでなく、
竹刀を握る彼ら全員に問いたい。


【More・・・】

共有する時間の長さと心の距離は必ずしも比例しないけれど、
共有する時間が多ければ多いほど、
それだけ相手を知る機会に恵まれるということは、
単純な確率の問題として確かだろうと思う。
様々な通信技術が普及したおかげで、
物理的な距離で失われるコミュニケーションの要素は、
肉体的な接触を除いてほとんどなくなった。
それでも、遠くにいる人間と関係を維持することは、
お互いの努力と譲歩なしには難しいと思う。
相手の人生に自分が関われない部分が増えるだけ、
心も遠くなってしまうような気がしてしまうなんてことはよく起こる。
だから、2年の夏の大会まで早苗と香織が全く連絡を取り合わず、
なおかつ再会した時に同じ道の上にいることを確信できるのは、
彼女たちそれぞれの稀有な強さの為す業なのだろうと、
シックスティーンの終幕のときには思っていたのだけれど、
少し時間を巻き戻して始まったセブンティーンを追うにつれて、
彼女たちは、少しも特別ではなかったのだと気がついた。
あの再会の日までの数ヶ月、いや再会のその瞬間にも、
早苗は無理をして取り繕いながら自己嫌悪に陥っていたし、
香織の鈍さと人間関係に対する怯みもなくなってはいない。
あの時点では二人はただ自分自身を支えるために、
信じたいものを信じているに過ぎなかったのだろうけれど、
彼女たちの本当の強さと柔らかさはその後にこそあった。
1年の最初の頃の香織に、今の彼女を見せてやりたい。

九州と東京で離れた二人の高校二年生17才の日々は、
先輩と後輩の役割を存外器用に過ごす香織を見ても、
新しい環境の戸惑いの中で剣道を見失う早苗を見ても、
16才の時と同様自分の高校生の毎日をいちいち思い出して、
唸ったり笑ったり、憤ったりと章をまたぐ度に忙しかった。
16才はどちらかと言えば香織の問題が中心だったけれども、
今回は早苗が悩む問題の方に重みが置かれている感じだった。
弱音を吐く早苗に対して香織が発破をかける構図など
出会いの頃の二人を考えると有り得なく思えるくらいながら、
発破のかけ方の強引さはやっぱりJK武士香織のそれで、
先輩と後輩にするようにもう少し上手くやれよと思わなくもない。
ただまあ香織のそういう部分が変わらないことによって、
早苗は遠く馴染みにくい環境で東松の空気を感じて、
何をすべきか、したいのかを思い出すことができたわけで、
そんな思惑は全くないだろうし、相手によっては反感を買うだろうけれど、
香織はこのままで良いのかもしれないなあとも思った。
幸いにして早苗との1年間の関わりのおかげもあって、
部活の仲間はそんな香織を受け入れてくれているし、
武士同士のような趣ながら父親やお師匠とも良い関係に安定している。
マックで寄り道するくらいで君の武士性は全く薄れないから、
香織には安心してJK武蔵の道を邁進して欲しいと思う。

早苗は福岡南にきて感じているもやもやを、
伶那が語る剣道の高競技化と重ね合わせて考えているようだけれど、
二人がそれぞれに思う剣道の違いと、
福岡南のやり方に対して早苗が抱く違和感とは、
剣道は全く分からないながら少し違うのではないかと思いつつ、
どれもそれぞれの前提、何のためにするのか、に照らし合わせれば、
全く間違ったやり方ではないのだろうとも思った。
前巻で香織がぶつかった剣道を続けて何になるのか、という問いは、
つまりは何のために剣道をするのか、という問いで、
それは福岡南と伶那に対して早苗が違和感を抱くポイント、
その前提になっている問いでもあるような気がした。
何かしらの競技でもって生きていこうと思わなくても、
その問いは部活で始まって終わるような場合でも生まれる。
そこで続ける意義を見出せないなら辞めることになるけれど、
早苗も伶那も、学校として部活に力を注ぐ福岡南も、
その問いに異なる回答を出した結果として、
生活の大きな部分を捧げて竹刀を振ることを選んでいるのだと思う。
だから多分、残念ではあるのかもしれないけれども、
この三者はその部分では完全に横に並ぶことはできない。
でも、竹刀を握るのはそんな信念そのものではなく、
血肉を持つ一人の人間で、それは先生陣も同じでしょう。
悩んで果し合いまでして、それでも残るこを決めた早苗が、
この先ぶつかるものの前でそれを忘れずにいられたなら、
彼女は緩く柔らかい不動の姿勢のまま、もっと強くなる。
辛いときは遠くで同じ道を行く戦友にもっと電話したらいい。

早苗と香織がそれぞれの剣道を邁進するのと同時進行で、
田原を始めとした後輩たちも着々と育っていて、
香織が田原に注ぐ視線の優しさと期待を見ていると、
自分が後輩だった時の先輩方の言葉や態度を思い出して、
気恥ずかしさや後悔がぼろぼろと沸いてきて、
ああもっと良い後輩で、良い先輩であれば良かったなどと、
もはや思っても詮無いことを思ってしまったりした。
先輩からかけられるそういう期待は、
やり方を間違えば後輩をつぶしてしまう結果になるかもしれないけれど、
期待されること、将来を信じてもらえたことは、
たとえ思うような結果をそのときは出せなかったとしても、
その先の人生で大きな礎になると思う。
大事なのは結果を期待しているのではなく、
きみはできると信じているのだとその時にちゃんと伝えることで、
香織にはその辺りの細やかな技術を伝えるだけ無駄だろうけれど、
田原の性格と、香織のことを把握した同輩たちがいれば、
重責を背負わせるのではなく共に背負う者として、
ちゃんと後輩たちを伸ばしていけるような気がする。
それにしても何だか憎まれ役の土下座が板についてきたなこの子…。
中堅の武士と考えればらしいのかもしれない。

本当に相手と自分を殺傷し得る凶器で向き合う緊張の重さは、
その力を持っていると自覚している者にしかおそらく分からない。
血の気の多さは多少問題かもしれないけれども、
喧嘩の後に胃腸にきちゃうような香織は、
誰かを守るために武器をとる資格がちゃんとあるように思った。
娘の将来が心配で、楽しみですなあお父さん。

スポンサーサイト

テーマ : 読書感想 - ジャンル : 本・雑誌


12:19  |  誉田哲也  |  TB(0)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

Comment

コメントを投稿する


 管理者だけに表示  (非公開コメント投稿可能)

▲PageTop

Trackback

この記事のトラックバックURL

→http://acon6960.blog40.fc2.com/tb.php/599-c3d27915

この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
この記事へのトラックバック

▲PageTop

 | BLOGTOP |