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2015.04.04 (Sat)

プラスチックとふたつのキス/メッセージ/過敏症 魚住くんシリーズⅡ・Ⅲ・Ⅳ


プラスチックとふたつのキス 魚住くんシリーズⅡ
(2014/9/25)
榎田ユウリ

去って行く人を引き留めるとき、何を言うべきだろう。
何を示せば、遠のく心に届くのか。

生きている限り繰り返すその瞬間に、
慣れることは難しいから、
せめて今日を共にと願う。
願うことしか、できはしない。

【More・・・】

仕方のないことの仕方なさを受け入れることは、
簡単なようでいてとても難しいことだと思う。
何しろ人間が関わって起こる「仕方ない」ことのほとんどは、
ほんの少しの注意や心構えの違いによって、
回避したり軽減したりすることができるから。
そのほんの少し、どうしても足りさせることができない部分は、
人間がどれほど賢く、強くなっても完全にはなくせなくて、
だからこそそういう出来事は「仕方ない」こととして処理される。
でも、人は漸近線に目を凝らすことをやめられない。
もしかしたらそれはどうにかできたことなのではないかと、
それこそもう少しも手出しできない仕方のないことである過去を、
何度も掘り出してはなぜとどうにかを繰り返す。
馨がマリさんや魚住くんたちに自分にはまだない強さをみるのは、
彼らの口にする「仕方ない」という言葉が、投げやりな諦めではなく、
本当に仕方ないことの、その仕方なさを理解した上で発せられるものだと、
この子が感じているからなのだろうと思う。
それはとても前向きな姿勢で、だからこそ彼らは笑えるのだけれど、
そこに至るまでにどれだけの仕方ないことに直面してきたのか、
その一つ一つをどうやって受け入れてきたのかを考えると、
馨には、少なくとも今はまだどうにもならないことに抗って、
迷って考えて、子供であることを味わってほしいと思った。
親ではなくても、子供扱いしてくれる大人ができたのだから。

魚住くんと久留米の関係の進展はもとより、
出会っては別れ、すれ違っていく人々のいずれもに、
彼ら一人一人の背中を押したくなりような、
いっそ力強く抱きしめてやりたくなるような愛しさを感じて、
Ⅳの帯にある通り、まさに幸あれと願わずにはいられなかった。
そもそも自分自身が大変に不安定なところに恋が進行していて、
魚住くんは人のことなど構っている場合ではないはずなのだけれど、
さちのや貴史、るみ子と話している魚住くんを見ていると、
この男は自分のことを考ようとする時よりも他者を思う時の方が、
自分というものの核心に近づくことができるのかもしれないと思った。
他者の思いを想像することで自分の心に気づく、なんてことは、
おそらく少し前の魚住くんには不可能なことだった。
自分も他人もなく、痛みや悲しみを全て同じように凍結させて、
過去の道端に置き去りにしていたような男が、
そんな形ででも他者と自分の痛みを思い泣けるようにまでなったことは、
彼が幸福というものに近づくためには、歓迎すべきことなのだろうと思う。
久留米を失いたくないがために手首を掻き切った男は、
久留米がいなかったならきっとさちのの後を追っていた。
それほどに魚住くんの中には未処理の悲しみが積もっていて、
もう少しで彼を殺してしまうところだったような気がする。
血だまりの中でそんな男を引き留めようとするマリさんの言葉が、
その痛みが魚住くんに届いて本当に良かったと思う。

女性として踊りたいと願う馨と、女子っぷりを武器にするるみ子が、
それぞれの境遇の中で思い惑っていることは、
根本のところで繋がっているような気がした。
二人とも、自分がどう在りたいのか、どうなっていきたいのかという部分に、
他人の評価や言葉がざくざくとどんどん差し込まれて、
そのために自分の望みが見えにくくなってしまっていたのだと思う。
それでも自分が望むように在りたいという心意気はしっかりと生きているから、
突きつけられる結果を誰を責めるでもなく引き受けようとしてしまう。
お酒の力を借りてきゃははと泣き笑うるみ子の姿は、
十代の頃彼女が望んだものではないのだろうけれど、
彼女が選べない中で必死に選んだものの結果であることは確かで、
そのことを賢い彼女は知っているように見えた。
だからこそ彼女は様々に愚痴を言いながらも、
自分を貶めることで他人を責めるようなことはほとんど言わないんでしょう。
不運にもずっと死が身近なものだった魚住くんが、
最後には死んでしまうから他人に合わせる必要はない、と言うと、
希望というよりは刹那的な自棄にも聞こえて悲しいけれども、
あの夜のるみ子にはそれが正しく届く言葉だったんだと思う。
その後の魚住くんや久留米との付き合いを見ていると、
久留米のついでで接近した魚住くんとの出会いが、
彼女にとってとても大きなものになったことが分かる。
これからも良き友人、良き同僚として二人の傍にいてくれたらと思う。

自分の感情に鈍感で、もちろん他者のそれにも鈍い男が、
自分の恋情に気付けたことは奇跡だなあと思っていたけれど、
改めて読み返してみればマリさんや濱田さんによる茶々が、
そこかしこで魚住くんの頭の中を整理してくれていたようで、
この二人なくして鈍い男×2の恋愛は成り得なかったような気がする。
魚住くんの久留米への思いの大きさは、
ほとんど表情筋が死んでいる男の細かな態度やなんかで明かなのに、
それを暫くの間見ない振りをし続けていた久留米は狡い。
狡いけれども、今まで考えもしなかった相手をその範囲に入れること、
しかも入れてみると違和感など全くないという事態は、
確かにちょっと待ていやいやいやとなってしまうのも、
いくら基本的に何も気にしない男久留米とはいえ、仕方ないと思う。
でも、だからこそ、思いを言葉で伝えて意思を確認することは大事で、
いくら辛抱たまらんからと言って何も言わずにすませようなんて、
それはちょいと頂けないなあと、諸々を自覚した男に手厳しく思った。
それでもそんな切迫した状況でも魚住くんの過去や身体に、
普段の様子からは想像できないような優しさと気遣いを見せるあたり、
これはモテるのは分かるなあという感じもした。
男女問わず魅了しまくる魚住くんと結構どっこいどっこいかもしれない。
お互い心が安まらんなあ、などとマリさんよろしくからかってやりたい。
あと1巻あることだし、存分に幸せになってほしい。

響子ちゃんが研究室をやめた理由や、
安岐さんとマリさんや、優しい大男三鷹のその後等を語りながら、
いつも通りの面々でわいわいと季節のものを突きつつ、
優しい終幕となることを期待している。

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