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2015.07.04 (Sat)

鳩とクラウジウスの原理


鳩とクラウジウスの原理
(2010/4/29)
松尾佑一

思いを伝えるには、
何をどうすればいいだろう。
愛を口にする勇気は、
どこかに置き忘れてしまったのに。

ああ、それでも、言葉を探そう。
白い鳩が窓辺で待っていてくれるから。



【More・・・】

モテる髪型、モテるスタイル、モテる話題作り等々、
丁寧に指南してくれる書物は多いし、
ちょっと検索しただけでも情報は氾濫している。
その一つ一つを吟味し試行することで、
何かしらの成果を得ている人もいるのだろうけれど、
恋人がほしい、特定の誰かに好かれたい、あるいは、
全方位あらゆる人間に好感をもたれたい、など、
目標とするところは様々なのだと思う。
ただいずれにしろその根幹にある思いは、
人に「好かれたい」という一点に尽きる気がする。
もしもそうであるなら、モテたいという気持ちは、
人と関わって生きる誰もが持っている思いなのかもしれない。
その先に幸せになりたいや愛したいがあってもなくても、
その思いのどれかを恋や愛と名付けても名付けなくても、
人に好かれることは快適な関係の第一歩なのだから。
なんて耳障りの良い言葉などクラウジウス団の団員には、
全く無用の、というより侮蔑に近いエールでしょう。
恋人がほしい、愛を語ってみたい、けれどできない。
だから嫉妬し憎悪する、世の恋人たち全てを。
単純で赤裸々で、男気溢れる教義をもつ彼らを愛しく思った。

2月にはチョコを呪い、12月にはサンタを捕獲し、
花見、祭り、花火大会など各種イベントに乱入しても、
世にあまねく恋と愛の日を消すことはできない。
精々が哀れみや嘲笑を買うのが関の山、
恋人たちの世界は少したりとも揺らがないでしょう。
クラウジウス団として実際に活動する男たちにも、
そんなことは良く分かっているのだと思う。
たこなしたこ焼きを売りつけたところで、
それはデート中の珍エピソードとして、
むしろ思い出作りに一役買ってさえいるだろうし、
妨害される恋文を携えた白い鳩たちなんて、
恋の炎を燃え上がらせる助けにしかなっていない。
だから活動の目的はまあ要するに憂さ晴らし、
あとは傷を持ち合って舐め合うことなのだろうと思っていた。
ただ、成果が上がるわけでもない活動ばかりして、
鬱憤は晴れるのだろうかと思っていたけれど、
白い鳩の荷物を全部入れ替えるわけではないと知って、
団員たちの潔さ、大和男児を名乗る矜持を感じてはっとした。
恋を憎みながら、他人の恋の成就を願うなんて、
その格好良さを別の所に使える器用さがあればなあと思った。

犬さんとロンメルの間にどんな会話があり、
どの時点から恋のようなものに発展していたのかは、
三人暮らしと言いながらほとんど家にいなかった「僕」には、
本人が述べているようにとても把握できないことだと思うけれど、
少なくともロンメルの側からはその芽は大学時代からあった気がする。
会の創始者であり友人でもある「僕」に対して、
ロンメルが虚実入り交じった憧れと崇拝を抱いているように、
むさ苦しい男たちの輪の中に切り込んでいった犬さんに対して、
紅一点の可愛い女の子に対する以上の思いを持ったとしても、
なんら不思議なことではないような気がする。
ただそれも「僕」の家での再会と時間があってこそ、
思いは恋になり、鳩は犬さんからロンメルへと飛んだ。
クラウジウスの原理の会の男たちが恋を、というより、
恋人になり得る可能性をもつ人間に対する会話やアプローチを、
何一つまともに行うことができないのと比較すると、
犬さんのコミュニケーション能力は多少風変わりなだけでなかなかのもの、
というかそんなことが全く問題にならないくらい面白くて良い子なので、
二人の恋が幸せに繋がることを願わずにはいられない。
団長の恋がついに成就したあと解散したという団員のことを思うと、
悲しみやら笑いやらで涙を禁じ得ないけれども。

鳩を利用した情報網の利点と欠点は、概ねパンフレットにある通りだし、
実用化したら動物愛護団体からクレームが入りそうだけれど、
アフロさんが言っているように、鳩が届ける情報には、
そのことだけで付加価値があるのも頷ける気がした。
特に気持ちを伝える目的の輸送には最適かもしれない。
なにも電子通信が速いばかりでダメだとは思わないし、
結局のところ重要なのは何を込めるかだろうけれども、
あえて鳩にあって電子にないものを挙げるなら、
それは体温であり、また「託す」という過程なのだと思う。
伝えたい、届けたいと願って鳩の鞄に込めたものが、
鳩という他者を介すことで、より直接伝わる。
そういう不思議が鳩便にはあるのかもしれない。
夜羽子との思い出と一緒に、
人に対する興味を凍結させた「僕」に「熱」を与えたのは、
犬さんとロンメルであり、鳩に託された沢山の思いの数々であり、
また帰るために飛び立つ鳩の優しい温度なのだと思う。
どうやら思い出の中ではなく現実に生きている夜羽子と、
長いこと人を好くことを忘れてきた「僕」の間に、
何が起こるのか、起こらないのかは分からない。
でも鳩が飛んでくれるなら、言葉の温度は伝わりやすいでしょう。
仲人に鳩を呼ぶ日がいつかくるかもしれない。

とはいえ都会の空に危険は多い。
確実に届けるための数打ち戦法も良いけれど、
管制塔には配達員の安全配慮も厳重にして頂きたい。

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