2017年08月 / 07月≪ 12345678910111213141516171819202122232425262728293031≫09月

2015.10.30 (Fri)

妖琦庵夜話 魔女の鳥籠


妖琦庵夜話 魔女の鳥籠
(2015/4/25)
榎田ユウリ

他人を己と同一視する限り、
人と人の絆を育てる間隙は、
永遠に現れない。

ヘソの緒がもうないことを、
母なる女たちが受け入れるために、
娘たちはどうあるべきなのだろう。


【More・・・】

親が親という生き物として生まれたわけではなく、
自分や兄弟の存在があって始めて、
母や父と呼ばれる者なのだということに、
初めて気がついたのはいつだっただろうか。
それまでは「お母さん」や「お父さん」に、
それ以外の呼び名があることの方が不思議だった。
子供が最初に出会う他人であるはずの親は、
その気づきが起こる瞬間まで、
「お父さん」や「お母さん」という形で、
子供の認識の上では自身に付属した存在なのだろうと思う。
その程度には親と子の関係は特別なものだけれど、
とはいえ親は他者なのだという気づきが一生起きない子供は、
ほとんどいないような気がする。
その後でどんな関係を築くことになるにせよ、
子供は成長の中で親と自分を切り分けることを覚える。
でも親、特に一年近い期間身体を共有し、
子供にはないその記憶をもつ母親が、
自分から生まれた者は自分ではないと認めるためには、
子供よりもずっと大きなきっかけが必要なのかもしれない。
目一杯の愛を込めて呪いを吐く母たちの言葉は、
一人の娘である私の手足に重く絡みついてくるようだった。

母と子の関係からさらに限定して母と娘の関係の物語というと、
ヤマシタさんのHERの中の何編かが思い出された。
カオリや優紀の母の言動の一つ一つは、
HERで描かれたような浮気云々なんて事件ほどには、
衝撃的ではない、というより外から見ればまあ少し過激かなという程度だけれど、
それでも、これまで母との間に強いわだかまりは感じたことがなく、
まして殺意に至るほどの思いを自覚したことがない人間でも、
彼女たちの母の言動は圧迫感を伴って身に迫ってきて、
母にとって娘が息子とは違う感覚を抱いてしまう存在であるように、
娘にとっても母親は父親と同じには対することができない存在なのかと思った。
青目によって育てられた殺意の芽は、
カオリと優紀自身がずっと持ち続けてきたものだし、
その結果の責任を背負うべきはあくまで彼女たちだけれど、
母を知る娘である女たちの胸にごくありふれて存在するものを、
ここまでの確かな殺意に育て上げたことを考えると、
交換殺人という単純な手を使ったことを差し引いても、
青目の人を動かす手腕はやはり恐ろしく高い。
アリバイ工作の杜撰さや妖人台帳の書き換えの件も、
伊織が感じている通り、青目の思惑の一部なのだと思う。
黒蜜を手作りするくらい可愛らしいアピールのやり方を、
誰かが青目に教えてやれたら良かったのに。

脇坂とウロさんに加えて、二口女のスミレに犬神の甲藤と、
洗足家は一つ事件を経る毎に着々と集会所のようになってきて、
芳彦との二人暮らしだった頃に比べると、
今の伊織の周囲は随分賑やかになったんだろうなあなと思う。
気むずかしい主は渋面をしているようだけれど、
世話を焼かねばならない阿呆がいればいるだけ、
青目に引っ張られる伊織の重しになってくれるなら、
座敷はもっとぎゅうぎゅうになってしまえばいい。
でも、その騒がしさに安心感を抱く一方で、
今回青目の生まれ育ちと二人の出会いが語られたことで、
血の繋がらない芳彦やマメに対して伊織が使う「家族」という言葉が、
伊織自身にとってはそれほど強固な足場ではないような気がして、
それが青目につけ込まれる隙になるのではないかと不安になった。
青目が母を殺した時か、あるいは伊織の母が死んだ時か、
そのどちらかでおそらく伊織は一度家族を失っている。
自分が守ると誓ったものを手放さねばならなくなった、
その傷の上に今の「家族」は作られていて、
さらには切り崩しにくるのはかつての家族なのだから、
青目が関わるだけで途端に伊織が感情的になるのは、
それを思えば仕方のないことなのだと思う。
「家」を踏み荒らされた伊織が次回以降もしも暴走するなら、
止めるべきは新しい「家族」と下僕の役目だと思うぞ、脇坂。

青目の母親はおそらく子を産む前後ですでに壊れていて、
男の幼少期、兄と引き合わせられるまでの日々は、
生きているとは言えないような地獄だったろうけれど、
青目はあの日兄と義理の母を得たはずで、
伊織の思い出の中のおっかさんの様子や、幼い兄の懸命さを思うと、
その頃の洗足家が青目にとっても、
一度は帰るべき場所になったのだと、単純に想像してしまう。
でも男は実の母を殺し、人を誑かす悪鬼になった。
その間に何があったのかはこの先の物語を待つとして、
今の青目にとっての洗足家と伊織がどんな存在なのかは、
少し捉え直す必要があるのかもしれないと思った。
青目は自分と同じような陰の特質を持ちながら、
人間社会に受け入れられている兄を単純に羨んでいるわけではないし、
他の人間の心に潜む悪意を育てるように、
兄の気質を弄ぼうとしているわけでもない。
暗がりから伊織に語りかける言葉は、
青目にとってはまさしく家族へのものなのかもしれない。
カイ、とそう呼ばれるのが好きだったと言ったとき、
伊織と青目を繋ぎ続けるのは、半分の血でも共有する特質でもなく、
青目の中に残るその温かな何かの残骸なんだろうと思った。
身内から弾かねば悪鬼を拒むこともできない男が冷たいはずもない。

とても耳が良い少女が、
妖人属性など忘れて、
伸びやかに生きられるよう願っている。
スポンサーサイト

テーマ : 読書感想 - ジャンル : 本・雑誌


12:09  |  榎田ユウリ  |  TB(0)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

Comment

コメントを投稿する


 管理者だけに表示  (非公開コメント投稿可能)

▲PageTop

Trackback

この記事のトラックバックURL

→http://acon6960.blog40.fc2.com/tb.php/628-74a901d7

この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
この記事へのトラックバック

▲PageTop

 | BLOGTOP |