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2016.02.25 (Thu)

ずっとお城で暮らしてる


ずっとお城で暮らしてる
(2007/8)
シャーリイ・ジャクスン

変わってしまったことを、
受け入れることができない時は、
逃げ出すべきなのだろう。
どこでもいいから遠くへ。

世界が砕けるのを待って、
留まり続けるくらいなら。


【More・・・】

欠けた器には接ぎ、ほつれた布には繕い、
各種物モノを接着する薬剤は多くあるし、
人間関係を修復する定石だってあるにはある。
疲れた心にはセラピーが効果的かもしれない。
ヒビや歪みを完全になくすことはできなくても、
壊れたものを直す手段はいくらでもある。
でも、直そうと努力するどころか、
壊れてしまったものを直視せずにいては、
何年待っても、どれだけ自分を責めても、
代謝をもたないものが勝手に直ることはない。
ひたすら献身的に家族の面倒をみるコンスタンスが、
一体何をそんなに自分を責めているのか、
最初はいまいち理解できなかったけれど、
炎が家を破壊した後、新しい生活が始まって初めて、
彼女の6年間の罪が何だったのか分かった。
彼女はすべきことをできないままに6年を過ごし、
家族はその残骸さえばらばらに失われてしまった。
チャールズはいけすかない俗物だったけれど、
正しいことを言っていたのだと思う。

6年前の事件が何をきっかけにして起こったのか。
メアリーが家族に対してどんな憎悪をもっていたのか。
その辺りのことは読み手としては大変気にはなるものの、
今のブラックウッド家においては最早大きな意味はないのだろうと思う。
死んだ者を欠いたまま残った家族が再び集った瞬間に、
この家はその形に再構築され、固定され、
そのまま6年という時が経過しているように見えた。
メアリーは心の成長を止めてしまっているし、
叔父さんも事件を反芻し続けることで、なんとか今に耐えているだけ。
三人のうちでおそらくコンスタンスだけが、
正しく6年という時間を感じることができていたのだろうけれど、
大きな家に残り少ない家族を押し込め、
ルーチン化した日々を繰り返すことが、
彼女にとっては自分と家族を守る唯一の手段であり、
死んだ家族への贖罪でもあったのかもしれない。
狂気を孕んで運行される家族の営みの中心にいながら、
その歪みを正気のまま見つめ続けたコンスタンスの胸の中には、
どれほどの叫びが閉じ込められていただろうか。
あの朗らかで優しい姉はどこまで本当だったのだろう。

メアリーは「魔法」の力を信じる女の子の心を持ったまま、
誰がどうやって家族に毒を盛ったのか、
その結果何が起きたのかということについては、
はっきりとした記憶と認識をもっている。
コンスタンスのように目をそらすわけでもなく、
叔父さんのように夢物語のような語りに昇華することもなく、
ちゃんと分かって、受け入れいるように見える。
それでも彼女がそのことに特別言及せず、
村で歌われる残酷な歌や投げつけられる言葉について、
決して姉に話そうとはしないのは、
彼女が本当に姉を思いやっているからなのだと思う。
軋み続けている姉の危うい心を知っているし、
その微妙なバランスを壊しかねない脅威を排除したいと願っている。
メアリーは家族を思い使命感と行動力をもつ女の子で、
だからこそコンスタンスは妹が何をしたのか知りながら、
彼女を恐れることなく慈しみ愛しているんでしょう。
事件以前のメアリーがどんなだったのかは分からないけれど、
事件は彼女を止めはしても、変えはしなかったような気がする。
家族への殺意と愛すべき幼い心が同居している彼女は、
燃え落ちた家で姉と二人になって本当に幸せを得たのだと思う。

家族内での毒殺事件の生き残りが住む家があって、
そこから明らかにおかしくなった女が一人で買い物に来たら、
村人が忌避してしまうのも仕方ないことだと思う。
もちろん、気持ちとしてはそうだとしても、
あからさまな悪意を向けて良い理由にはならない。
けれど火事の晩、炎の熱にあてられて暴徒と化した村人は、
事件以降溜めに溜めた思いを掃き出すと同時に、
これで何かが変わるだろうことを期待して、
喜びに舞っていたようにも見えた。
こんな暴挙にさらされればいくら狂って硬直した家でも、
家族が出て行くなり、いっそ村に復讐するなりするはずで、
そうなれば、おぞましい家はどんな形であれ解体されると。
なのに家は完全には崩れ落ちず、姉妹は残った。
消えるでもなく、怒りさえせず、暗がりからこちらを見ている。
炎と破壊が何も解決してくれなかったことを理解した時、
事件の直後よりも激しく、村人達は恐怖したのだと思う。
あの家に住んでいるのは狂った人間の姉妹ではなく、
触れてはいけない、見てもいけない、恐ろしいもの。
だから許しを乞いながら捧げ物をせずにはいられない。
神が生まれる瞬間というのはこういうものなのかもしれない。

メアリーは死んだという叔父さんには、
何が起きたのか正しく見えていたのだと思う。
確かにあの日から、生きていたのはコンスタンスだけだった。

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