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2016.04.18 (Mon)

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(2007/1/30)
誉田哲也

猿の手は願いを叶えてくれる。
悪意ある拡大解釈をして、
願った者が望まない形で。

広大なネットに繋がる小さな端末。
猿の手の罠はその狭間にある。


【More・・・】

手に入れたい物がある。やりたいこともある。
形のない愛のようなものも含めれば、
欲しいと思うことにおそらく終わりはない。
生きている限り続くその衝動を浅ましいとは思わない。
でもそう言っていられるのは、
欲を満たすことができないからこそなのだと、
少年少女が落ちていった悪夢のような世界を見ていて思った。
欲望を制限するものがなく、何をしても取り返しがつくなら、
創作物の壁を築いてそれが崩れるままに埋もれて、
ときどき気に入らない人を殺したりあるいは殺されたりするような、
そういう小さな箱を私なら作ってしまうのかもしれない。
そしてその箱同士は決して交流することがない。
侵入者が青竜刀で扉を作るまで、
箱の中で妄想に埋もれたままなんだろうと思う。
ニセ可奈子や喜多川の振る舞いは悪夢の世界が現実に漏れ出したもので、
近所の犬や鳩を殺したり、人を惨殺することは、
拡大解釈とはいえ各々の欲望の一部だったんでしょう。
でもニセ可奈子は母親を殺さなかった。
どこをどう歪めて解釈しても、その結論は導かれなかった。
あらゆる悪意を煮溶かしたような世界を切り開くための、
もう一本の青竜刀はそこにあるのではないかと思う。

ビデオやメール、着信で呪いが感染するというのは、
現代の怪談の一つの典型になりつつあるけれども、
感染経路が無料プロバイダの紹介と登録というのは、
あくまでリアルの人間関係の上に成り立つ点は他と同じとはいえ、
痕跡が残りにくい分第三者に把握しにくい点を考えれば、より密室性が高い。
あんな狂った世界なのに、企画立案係とSEは優秀だなあと思う。
今回は本人ではなく保護者に明細が行っていたこと、
また高校生という失踪が大事になりやすい人間が何人も異常事態に陥ったことで、
なんとか警察や和泉にも事態を疑うとっかかりがあったけれど、
これが大学生、社会人の間で起こっていたなら、
残るのは不自然に無料になった明細だけなのだから、
当事者同士でもそれぞれの異常を繋げて考えることは難しかったと思う。
丸山、尚美、可奈子、雪乃、翔矢、喜多川の六人のうち、
死亡多数とはいえそれでも二人が帰還を果たしたのは、
もちろん両方の世界での踏ん張りの甲斐あってこと。
特に現実世界では雪乃の、あちら側では丸山の功績が大きいと思う。
それだけにその二人の帰還が叶わなかったのは辛かった。
可奈子があっという間に手放しそうになった意識を、
多分雪乃はあちら側へ落ちてから尚美と可奈子が目撃する瞬間まで、
決して開かない拷問部屋で保っていたのだと思うと、
もう少し早くどうにかならなかったかと思わずにはいられない。
あるいは翔矢を失わなかったならもういくらかは耐えられたのか。
守るためには死をも恐れない勇猛さよりも、
何が何でも生きるという決意を翔矢には持って欲しかった。

一体何に巻き込まれてしまったのかに迫ろうとする前半と、
それに敗れてから悪夢の世界からの脱出、反撃に出る後半。
身体の乗っ取りのようなことが起きているのは分かっていたけれど、
そうなる以前に身体が死んでしまった尚美が、
後半になってたくましい指南役として出てくるとは予想外だった。
勇気を振り絞って可奈子を導こうとする様が余りに健気で、
彼女こそが一連の連鎖の発端かとも思っていたことを申し訳なく思った。
あちらの世界の罠にはまってしまう以前は、
二人は緩やかな依存のような友情しか築けず、
それさえも恋のすれ違いで壊れそうになっていたのに、
悪夢の中で命を守り合うようになってからは、
まっすぐに気持ちをぶつけ合い、喧嘩し、そして互いを思いやっている。
現実世界でも沢山人死が出たし、
尚美は自分の身体を、可奈子は雪乃を失いさえしたけれども、
二人の友情という一点についてだけならば、
こうなったことは悪いことではなかったのではないかと思った。
それほどに悪夢の中での二人の戦いは、
少女たちの果敢さと脆さが懸け合わさって煌めくようで、
惨たらしい場面の連続なのに随所でときめいてしまった。

少年少女たちが命を懸けて自分の心と身体を守ろうと奮闘する横で、
何が起きているのかを把握できないまま、
それでもできる限りの努力をして大人たちが彼らを思っている。
共有する時間が少ない分細かな変化には気づきにくかったけれど、
病院に駆けつけた孝太郎が激しく感情を高ぶらせる様子には、
他の誰でもない自分の娘を思う父親の気持ちが溢れていて、
父と母に同じだけ強く愛されて可奈子は育ったんだなあと感じた。
一方で三木の雪乃に対する思いは、愛人へのそれだけではなく、
保護者でもあり、信奉者のようでもあったような気がする。
それらが矛盾なく同居している所に、
三木という男の歪みがある気がするけれどそれはそれ。
尚美が帰還するとき、そこにはもう雪乃はいない。
でも、常識に照らして納得できるような説明など一切ない状況で、
目の前の女はもう雪乃ではないのだと三木が受け入れたとき、
正しくはないけれども凛として生きていた雪乃の人生は、
その心の在り方は、わずかでも報われたのではないかと思った。
雪乃の欲望の悪意ある拡大解釈の結果として、
ニセ雪乃が薬や銃を求めたということは、
本当の彼女にも破壊してしまいたいものがあったのだと思う。
けれどもそんなことはおくびにも出さず、
悩める従姉妹を見舞うような娘だったのだから、
あんなおぞましい精神に身体を好きにされるより、
優しい従姉妹の友人にくれてやる方がマシだと言う気がする。
先に待ち受ける問題は二人一緒に乗り越えていけばいい。

丸山の身体はおそらくまだ生きているだろうけれど、
たとえ中身を追い出しても帰ってくる本物はもういない。
そういう事例に向き合う二人をまた見てみたい。

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