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2017.01.31 (Tue)

午後からはワニ日和


午後からはワニ日和
(2012/3/9)
似鳥鶏

厚い体毛もなく、
鋭い牙や爪もなくした我らには、
無闇に大きな脳みそと、
デッキブラシだけが残された。

ホースを持って、いざ始めよう。
掃除、掃除、そして掃除だ。
動物たちの朝は早い。


【More・・・】

動物が好きで、好きなものを仕事にしようと思ったとき、
選択肢は様々にある。
獣医や飼育員として管理するのも、
動物そのものや生息地の研究者になるのも、
動物を殖やしたり売り買いする者になるのも、
同じ動機で選ぶ可能性のある職業だと思う。
職業上の倫理や使命も異なるし、
日常の業務内容も多様なそれぞれの仕事は、
けれどその末端では必ず「獣」の前に立つことになる。
知能以外のほとんどの点で彼らに劣るにも関わらず、
どの仕事もその相手と相対せずには遂行できない。
その瞬間、好きだというところから様々に枝分かれした思いは、
自分と動物という同じ点に戻るのではないかと思う。
ワニに、ブタに、猛禽に、モルモットに、ダチョウに、
その前に身一つで立ち向き合う時、
飼育員一人一人の始まりの点が見えるような気がした。
そういう仕事を日々の糧にできるというのは、
とても貴重で、本当に眩しいことだ。

「動物園の飼育員さん」は動物が好きだと思ったことのある人なら、
一度くらいは憧れたことのある職業だろうと思う。
それはつまり夢見る子供にとって、
心躍らせる最初の瞬間にそこにいるのが、
「飼育員さん」だということに他ならない。
子供たちの夢が現実になろうがなるまいが、
その時その場所に憧れの対象として立ち会えるというのは、
大人にとっても羨まずにはいられないことだと思う。
それだけでもその職に就く立派な動機になる気さえする。
もちろん、桃さんが言っているように、
飼育員の仕事の大半はそういう場面ではない。
掃除、掃除、掃除に次ぐ掃除と餌の用意だということは、
動物を飼って世話したことのある人なら想像できることでしょう。
けれども、かつて「飼育員さん」を夢見た子供だった彼らは誰一人として、
今の仕事に失望したりはしていないように見えた。
七森さんのように憧れと現実の違いに立ち竦むことがあっても、
動物と向き合えるという喜びが推進剤にもパテにもなってくれる。
楓ヶ丘動物園には今も憧れを仕事にしている人がたくさんいる。
夢見る子供にはぜひここに足を運んでもらいたいと思った。

イリエワニ、ミニブタ、クジャクと続いた窃盗は、
「怪盗」という言葉の明るさが不穏な気配を和らげるからか、
単に桃くんの語りがなんとなく常にとぼけているせいか、
あまり深刻な展開に怯えることなくほのぼのと読んだ。
ワニやヘビの窃盗とくれば違法な物の密輸が相場なので、
裏にあるものはそのあたりかと思っていた。
大筋というか最初の背景はそれで正解だったけれど、
蓋を開けてみればこの事件の核心は窃盗でも動物でもなく、
善良な者が野放しの暴力に対してできることは何かという、
そういう問いなのではないかと思った。
弱い者が暴力の前で選べるものはそう多くない。
暴力を使うという手はないのだから。
遠藤さんは多分、善良であることと守るべきを守ること、
選ぶべきでないものを選ばないことを何度もその都度天秤にかけて、
それでなんとか選び出した結果が今回の事件だったのだと思う。
ブタを埋めるとき、腹を割かれると分かっているワニを盗むとき、
彼がどれほど歯を食いしばったろうと考えると、
暴力によって生きている者を憎悪せずにはいられない。
どんな末路でもあの男に同情する余地はない。

語り手の桃くんは探偵役でも事件のキーパーソンでさえもなく、
強いていうなら強行調査班助手くらいのものなので、
真相に迫るのは服部くんや団長、鴇先生の役割ということになる。
では桃くんは何をしているかと言えば、
担当動物を盗まれ見当違いの疑惑に右往左往し、
昏倒している間に調査も推理も別の所で終わっていたわけで、
順を追って見ていくと全く良い所がない。
でも事件の解決に関して何もできなくても、
彼は多分とても真っ当に飼育員をやっている。
どんな事件が進行中だろうが誰にどんな疑惑をもっていようが、
桃さんは掃除の手を休めないし先を見越して経験を積もうとする。
後輩の悩みに真摯に向き合おうともする。
全く天晴れな仕事ぶり、飼育員ぶりだと思う。
何かと妄想の仲で人を動物にしたりしているあたり、
桃くんにとっては檻の中の動物も外にいる人間も、
さして違いはないのかもしれない。
今の調子でどんどん偶蹄目に近づいていって欲しい。
とても未来の楽しみな若者だった。

正規の入手ルートがないわけではないらしいイリエワニ。
設備と餌代を用意できる気はしないけれども、
ワニのつぶらな瞳とあの瞬膜には魅力があると思う。
イリエワニか…。イリエワニ…。

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