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2017.03.19 (Sun)

暗くて静かでロックな娘


暗くて静かでロックな娘
(2015/12/17)
平山夢明

この命を懸けることだけが、
明日を生きる金を得る唯一の方法。

次の明日を生きる気力を得るために、
その金をドブの中で使うとしても。

どうしようもない人生を、生きよう。
他にこの世ですることはないのだから。

【More・・・】

どんな場所で生まれ育っても、
不運や不幸に見舞われたとしても、
生きている限り人生には逆転や奇跡が起こり得る。
それは甘い夢などではなくただの可能性の話で、
だからこそ日毎の辛苦を乗り越えて行くには、
あまりに弱々しい希望に過ぎない。
100分の1ゆえに奇跡は奇跡と呼ばれるのだから、
そうでない99回の方が圧倒的に身近なのは道理。
99回。奇跡の起こらない99回。
痛みの上に痛みが重なり、絶望は絶望のままで、
死はどんな願いを込めようと何も救わない。
世界の大部分はそういう風に出来ている。
泥と血と、とにかく汚いものにまみれて生きて死ぬ彼らの物語に、
何度もそのことを突きつけられた。
肉体は壊れ、いっそ壊れたところから始まり、
奇跡を願う心も芽生えない容赦のなさで踏みにじられる。
それでも彼らは、なんて希望の言葉を続けることさえ憚られて、
ただ呆然と奇跡の起こらない人生の行き着く先を見守った。

彼らの共通点を探すなら、誰も彼もにお金がない。
財布は大体いつも空っぽで、
たまに入ってもすぐに借金の返済か飯か女に変わってしまう。
貧しさを服よりも当たり前にまといながら、
本当にその日その日を引き延ばすように生きている。
そういう彼らの生活にはお金で解決できる問題が山積みになっていて、
そのせいでお金では解決できない物事が見えなくなっているような気がした。
お金では解決できない問題を考えることができるということ自体が、
お金で解決できる問題の山を無視できる程度にはお金をもっている、
そういう人間にだけ許された贅沢なのかもしれない。
お金さえあれば、命懸けの綱渡りも危険な磯物採取も、
怪しいばかりのボロい店でのあこぎな商売も必要なかった。
お金さえあれば、彼らの人生は全く別のものになっていたはずで、
そのときにはもっと別のこと考えるのに時間を使えただろうと思う。
短期でしか先を見られず、命でお金を購い、
その場その場の必要や欲望にしかお金を使えないことは、
愚かと言われることなのかもしれないけれど、
お金さえあれば、賢くお金を使う術も学ぶ事ができた。
体裁を整えられる程度には初期費用を渡される勇者は、
本当に幸運な人間なのだと思った。

とはいえ常にお金に困っていて暴力は隣人で、
不運も不幸も日々のおかずのような彼らだけれど、
死んだりしない限りは概ね生きていくことができている。
優しさで人と繋がる事もあれば、
それが恋や信頼と呼べるものに変わることもある。
多分そういうものが汚泥の中に含まれていることもまた、
奇跡の起こらない人生の一つの側面なのだと思う。
無残な死や取り返しのつかない失敗と愛を、
よくこねてどうちらがどちらか分からないくらいにして、
そうして出来ているからこそ彼らの人生は、
滑稽でもの悲しく見えるのだろうと思う。
いつどこでぶつりと途切れるとしても、
一生がそのどちらかだけだったなんてことはない。
口汚く罵り合う夫婦にも愛はあったし、おそらく今もある。
殺意は熱意にくべられて連帯を生み、
やがて滑稽の極みに至っていく様は爽快だった。
悲劇が起こっているまさにその瞬間に、
大体飲んだくれてしまう男達のどうしようもなさには、
哀れを通り越して笑ってしまう。
お金云々と一緒にお酒の問題も解決すべきかもしれない。

なんやかやと生きようとはする者たちの中で、
「人形の家」のはあちゃんだけは死に取り憑かれて、
もう半ば彼岸に足をかけてしまっている。
此岸と彼岸の狭間にいる彼女は、寄せては返す波に攫われるように、
時々死ななくてはと思ってしまう。
そういう風な人間を引き留めるための努力は、
周囲の人間をひどく疲弊させてしまうのだと思う。
妹に、娘に生きていて欲しいと強く思うからこそ、
間違った手の尽くし方をしてしまった家族は、
はあちゃんの現状にどれほど胸を掻きむしっただろう。
軽やかに窓から身を投げることは復讐のようにも見えるけれど、
多分彼女にはそういう意識は全くない。
はあちゃんを引き留めるのも引っ張るのも、死んでしまった子供だけ。
あの子のいる場所に行きたくて死を思い、
あの子をもう一度産んでやりたくてこの世に踏み止まる。
その揺らぎが「イタコ」とのままごとであり、
ジローとの生活なんだろうと思う。
彼女の中に空いた穴が埋まる度に金属の玉が減っていくなら、
一緒に狂っていられることは幸福に他ならない。
最後の一つが転がり落ちるまでカレーを食べて待てばいい。

苦くて強く臭うのに飲めばめちゃんこハッピーな夜と、
その後に続く後悔まみれの朝を約束してくれる酒のような小説集だった。
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テーマ : 読書感想 - ジャンル : 本・雑誌


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