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2017.04.09 (Sun)

北天の馬たち


北天の馬たち
(2016/9/22)
貫井徳郎

守るべきが何なのか、
しかと見極めるのは難しい。
あれもこれもと手を伸ばしては、
そのどれもを失ってしまう。

まあとりあえず、落ち着こう。
美味いコーヒーを頼むぜ、マスター。

【More・・・】

少年漫画の中で最も尊ばれるものは、
多くは「友情」に分類できるものなのではないかと思う。
家族間の愛は努力せずとも存分に与えられる、
あるいは最初から期待しようもない形で失われていて、
性愛に繋がるような衝動を動機するには少年すぎる。
そういう主人公たちが意識的に他者と繋がろうとするとき、
結ばれる関係は友か、敵かに大きく二分される。
恋愛「でないもの」や家族「でない」相手への親愛、
ベン図においてそれら以外の部分として区切るのではなく、
ただ特定の相手を指して〇で囲って友だと定義するように、
少年たちの友情は発生する。
比べる必要もない唯一無二のものだからこそ、
彼らはそれを守るための努力を惜しまないし、時には命だって懸ける。
そういう主人公たちのように生きる皆藤と山並を見ていると、
友を思うことはこんな風なことだったかと、
いやに真っ直ぐに背筋を正されるような思いがした。
少年でなくなってしまえば、純粋に友のために何かをすることは難しい。
いや、それは彼らのようには思えないことへの言い訳か。
すでにいない友のために人生を懸けて友情に報いようとする二人が、
横浜の町並みからどこか浮き上がって見えて、
彼らを地に下ろすためについ裏側や陰を探してしまった。
そんなものなどない友情をすでに信じられないことが悲しい。

怪しい探偵二人組による事件簿的なものかと思いきや、
物語の核が最初から最後まで二人に周りあったところを見ると、
探偵という稼業自体が目的のために選ばれたんだろうなあと思う。
少女を守るため、危険から遠ざけるためだけに、
二人の男は計画を練り、職を替えて、
一つ一つ慎重に時間をかけて罠を張っていった。
その執念はもはや友情や義理では片付けられない、
一歩間違うと危険な領域にさえ入っているようにも見えて、
自立心の強そうな二人の男をこれほど魅了するとは、
聡一とその家族はどれほどの光を振りまいていたのかと、
そちらの方を訝しくさえ思った。
それとも、ただのどこにでもあるような幸福な家族であっても、
間近でそのぬくもりを浴びたというだけで多大な影響を受けるほど、
探偵の心の方が飢えて乾いていたということなのか。
二人が芽衣香を守ることに熱心で周到であればあるほど、
どうしてもその裏側に乾きがあるように思えて寂しくなった。

長男夫婦が亡くなった後に淑子と芽衣香に纏わり付く思惑は、
巨大なお金が呼び寄せた第三者の欲望が渦の中心になっていて、
確かに殺意も悪意もあるけれど、
それは人と人の関係というよりは金と人の関係でしかない。
もしも彼らがその当時本当に探偵だったなら、
解きほぐすべきだった心や関係の糸は、
敬次が亡くなった時点で、
すでに取り返しのつかない形で切れてしまっている。
だから今回、数年の時間をかけて二人の探偵が完遂した計画は、
そもそもが後始末的な意味合いのものだったのだろうと思う。
殺人と犯人の死という最悪の形で終結してしまった事件が、
これ以上無関係の者を傷つけることがないように、
探偵たちは火種を消して回っている。
明るい性格とは裏腹に皆藤と山並が纏う殉教者のような雰囲気は、
その辺りから生じているのかもしれない。
脅威が取り除かれ、芽衣香と淑子が日本に戻ったことで、
二人の殉教の旅も終わっていればいいと思う。

守るべきもののために人生を使うことを選んだ二人に対して、
毅志は現在の自分が劣っているかのように感じているようだけれど、
多分大人であるということは、どんな経験をしたかということや、
何に人生を使うかということで優劣がつくようなことではない。
ただ何に人生を使うかを自分で決めるということさえできれば、
それは誰に恥じるものでもないように思う。
皆藤や山並のような殺人だの遺産相続だのに関わらずとも、
自分の意思でペガサスを選んだこと一つで、
毅志は二人と並んで歩く資格があるだから、
そんなに二人を見上げるようにしなくてもいいのにと何度も思った。
とはいえ、世間の裏側に片足をかけたまま、
飄々と軽やかに世を渡っているように見える二人は確かに格好良い。
そういう人間が近くにいて仕事をしていれば、
どこまでも善良な市民である自分が小さく思えるのも仕方ないか。
でも、芽衣香たち家族を眩しく思っていたのと同じくらい、
おそらく二人はペガサスという場所を大切に思っていた。
だからこそ事態がどう転んでも累が及ばないように、
二人は準備しようとしていたのだろうし、
それを台無しにしてしまうような危険を冒してでも、
毅志に言葉を残したいと思ったのだと思う。
水臭いと言いたくなる気持ちも分かるけれど、
言ってやらないことが市民としての心意気だぜ、マスター。

自ら殺すという手段はあまりにもリスキーで、
どんな場合も最善とは言いがたい。
状況的には、その道の方々に情報を流すだけでも、
脅威を排除するには十分だったはず。
どこかの海に潜って羽を伸ばす二人が目に浮かぶ。

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