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2017.04.23 (Sun)

11 eleven


11 eleven
(2014/4/8)
津原泰水

終わりに向かう坂道を、
人は様々に下っていく。
転げるように、
あるいは爪を立て抗いながら。
軽やかなステップの女がそれを笑う。

彼らの声に耳をすませよう。
坂の途中に留まっている。
その、つもりで。


【More・・・】

嘘というのは普通特定の事柄を隠すためにつくものだけれど、
それなしに、ただそういう反射板をもっているかのように、
あらゆる現実を嘘で返してしまう人間が、
その癖を直すのはおそらくとても難しい。
「本当のこと」で自分が傷つくのを恐れている、とか、
ありのままの世界の陳腐さに飽いている、とか。
嘘をつく背景に様々に理由づけをすることはできるし、
専門家がそう分析するなら大方はその通りなのだろうと思う。
でも背景が分かったところで、嘘は止められない。
止めるには多分、臓器を丸ごと取り替えるくらいの手技が要る。
食べたものを別の形で排出したいのなら、
消化器をいじるしかないのだから。
そんな人体改造のようなことをするくらいなら、
嘘つきたちのその呼吸を放っておいてくれないかと、
ほとんど保身のように考えてしまう。
何もかもを嘘で塗り固めて生きて死んだ娘の軌跡を追う父親の姿には、
申し訳ないような悲しみを感じるけれど、
嘘が他人を苦しめるのはそれが破綻したときであるはずで、
バレさえしなければ皆それなりに幸せだったのになあ、
なんてひどいことを思った。

自らを見世物にして生きる家族の話「五色の船」。
和郎が家族という集団を船として考えているそのやり方が、
自分が持っていた家族観と同一のものに見えて、
けれどだからこそ誰かが別の船に移っていくのを、
和郎と桜が切実に恐れる気持ちを遠くに感じた。
たまたま同じ船に乗っているだけだから、
船が沈まないために助け合うのは当然だし、
一方でいつでも別の船や岸に移っていけるのだと考えていたけれど、
結局はそれは本当に生まれたときから同じ船に乗る人間が、
もう二度と近づくことのない別の船に移っていく可能性を、
信じていないがえの甘えだったのかもしれない。
そもそも「父」の存在によって拾い集められた家族で、
その生活が安定とはほど遠いことを知っている和郎にとっては、
大切な船はいつひっくり返ってもおかしくないものだったのだと思う。
それを考えると私の船と和郎の船は別物なのかもしれない。
「くだん」にまたがったことで世界は分かれたのか、分かれなかったのか。
どちらとも判然としないけれど、船は確かに分かれてしまった。
生きたまま別れることの寂しさが刺さるようなラストシーンだった。

グレート・デンほどの大きさの犬を実際に目の前にすると、
この生き物が人間に従って生活しているということが、
なにかとても不自然なことのように思えてくる。
子供なら実際彼女がやったように尻尾の一振りで吹き飛ばせるそ、
ちょっと力をいれて噛めば大人の腕を砕くこともできるのに、
飼い犬として育てられた彼らはそれをしない。
本当は自分よりも強くて、だから「上等」な生き物を服従させる。
というより、服従されるというのは、
ただ弱い者にそうされるのとは、
違った快楽があるのではないかと想像する。
自分よりも強くて美しい犬、若く純粋な少女を檻に入れ、
命令を与えて飼い慣らすことで、
多分彼女は夫に裏切られた自分の尊厳を慰めながら、
一方で自分を貶めてもいたんだろうと思う。
天秤をぐらぐらと左右に揺らすような行為の最後に行き着いた極地が、
服従させている相手に自分を食べさせることだったんでしょう。
彼女がグレート・デンばかりを飼う理由には、
犬への愛情はほとんどないし、
結局は犬共々破滅にひた走っていったわけだけれど、
手間もかかれば気も遣う巨大な犬との二人暮らしは、
少女のことも含めてそう悪いものではなかったようにも見えた。
愚かな人と共にある犬は偉大なり。

自分が何者かを身一つで照明することの難しさは、
血縁関係等を検査で確定できる現在でさえ簡単なことではなくて、
まして出生や死亡の届一つで人が管理されていた時代では、
そう名乗り、幾人かがそうだと認めてしまえば、
他人になりすまして生きることも不可能ではなかっただろうと思う。
でもだからと言って、自分自身が何物であるという確信が、
今よりも曖昧だったということにはならないのだと、
割合で言えば人生の大半を他人として生きた男が、
最晩年になって元の名を叫ぶのを見ていて思った。
人の上に立つ立場に生まれ、それを自負していた者が、
土だけを相手に人生を過ごしたのなら、
それは生まれというものを完全に手放したがゆえなのだと、
妻のために煌々と灯りをつけていたことや、
時代が動いても変わらず土地を守っていたことから、
途中まではそんな風に考えていたけれど、
男の中の「地主の嫡男」はそうやって年を重ねる間も、
決して死ぬことがなかったということなのか。
若くして肺病で死んだことになった青年を最後まで生かすことが、
土と共に生きることになった男の支えだったのかもしれない。
男の死とともに青年もまた死んでしまった。
二人分の重みをもつ男の骨が土に戻る様は、
海に一粒の雨が落ちるかのようだろう。

特定の条件下で機械的な反応をするテルミン嬢。
愛する人の隣にいられない苦悩は悲劇だけれど、
彼女の正確で無慈悲な挙動は、
宇宙の理の一端のように思えて胸が躍った。

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