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2017.06.03 (Sat)

黄泉坂の娘たち


黄泉坂の娘たち
(2014/9/30)
仁木英之

時の止まった村に住む者たちにも、
時間は積み重なる。
体の記憶の上に、
心だけの痛みが降り積もっていく。

だからきっと大丈夫。
まずは話し合おう。
死者は待ってくれる。

【More・・・】

守護霊、地縛霊に背後霊、浮遊霊。
いわゆる幽霊と言われる存在は、
体を失った魂がこの世に残ったものという理解が一般的かと思う。
死んだあと、魂がどこへ行くのかは、
各人の宗教観、世界観によっと異なるところだけれど、
多分大抵の場合は順当な手続きの「外側」が想定されている。
つまりあの世なり地獄なりに行かず、この世に居残っている魂が、
なぜ、どうやって、そこにいるのかついて「制度」的な説明があるはずで、
それは死んだらどこへ行くのかという問いの回答と同じくらい興味深い。
罪があるから転生を許されない。心残りがあって動けない。
あるいは生者を守るため、善なる何かを為すために残っている。
より上位の存在によって呼び戻されている。そんなパターンもあるでしょう。
そうやって死の後にも色々な可能性があるなら、
未練があって川を、坂を越えられないときには、
そこへ向かわずにいるための規則外の方法も当然あるのだろうなと、
様々な怪異譚を読むたびに考えてきた。
死の後にもどんな形であれ「私」というものが残っているなら、
生きている時そうであったように道は自分で決めるべきだろうと思う。
自分の仕事に誇りをもつのは素晴らしいことだけれど、
それで人と縛ってはいけないと思いますよ、黄泉坂在住の各々方。

前村長の退陣と速人の無茶によって、
入日村と坂の関係は大きく変わるかと思いきや、
日々死に続け迷い続ける人々と向き合うという仕事は変わらず、
ただその担い手が妖怪的な者たちになっただけだった模様。
ちゃっかり車に住んで居着いている速人も含めて、
村の様子はそう変わったようには見えない。
その変わらなさを見ていると、
入日村は特殊な場所ではあるのだろうけれど、
生と死の狭間にある場所という意味では、
古今東西で稼働しているシステムの典型なのかもしれないなあと思った。
入日村が世界中の迷える死者の通り道にあるわけでもないので、
おそらく村は数多ある境目の停留所の一つ、というだけなんでしょう。
その一つの駅の運営方針について、
従業員の意見が割れてさあどうしようというのが今回の話で、
どうしたところで大黒さんのように上部の意向から大きく外れない限り、
この世とあの世の関係はそう変わらないような気がして、
各人思うようにやってみたら良いのではと思った。
何をするにも形から入っていく新村長は可愛らしかったけれども、
村全体が考えすぎて方向を見失っているようで寂しくなった。

元からの村民たちの多くが向こう側へ渡っていったことで、
村は妖怪と彩葉と神たる玉置様で構成されることになり、
前回の騒動で露わになった境界線は少なくとも数の上では減った。
玉置様と村の距離もぐっと近くなっているようだし、
村人がそうしてきたように妖怪たちは彩葉を大事にしている。
でも速人がまだそこにいて話もできると知ったときの、
彩葉の静かなはしゃぎ方を見る限り、
この子の孤独は少しも変わっていないのだと思う。
彩葉は死んで百年経って人間以外のものとの付き合いの方が、
生前の人と触れ合った時間よりも長くなっている。
その間ずっと神に近いところに押し上げられた立場にあり続けた。
それでも彼女が少女そのものの感情の昂ぶりを見せるたび、
確かに人間だった十年ちょっとの時間によって、
今の彩葉の大部分は作られたのだという気がした。
死者に対する冷静な眼差しは死後培われたものだろうけれど、
個人の事情に向き合いたいと思う気持ちは、
人として人に触れたいと欲する寂しさが大元になっているのかもしれない。
一つの大きな魂として未練をもつ死者が現世に残るという案は、
個別の事情を勘案しないという意味では大黒さんと大差ないわけで、
彩葉が受け入れられるものではないのも分かる。
その辺りの考え方では対立してしまったものの、
人として生きた時間を根っこに大切に持っているという点では、
彩葉とやよいはよく似ている。
よく話し合い、もう少し同じ時間を過ごせば、
二人は良い相棒になれるのではないかと思う。

同じ戦で刃を交えて命を落とし、
同じようにこの世に居残っている二人でも、
未練の形は全く別物なのだから、
こんな風に死んだからきっとこれが未練だろうなんてことは、
外から分かるものではないのだろうと思う。
突然波に飲まれても、長く一緒にいた人と心中しても、
そのことと死者の足を重くするものは無関係かもしれない。
だから本当にこれ以上未練で坂を延ばしたくないのなら、
あちら側のお役所がすべきは幼神一人の派遣ではなく、
迷いの根っこを探る旅の同行者となる人材の大幅増員だろうと思う。
現場が通常業務の傍ら新人のスカウトまでしなければならない状況は、
負担が大きいばかりで誰にとっても利にならない。
大黒さんの暴走の大元も人手不足だったと見ることができるわけで、
頑張りすぎる少女に二の轍を踏ませないためにも、
あちらの上層部にはぜひよくよく頭をひねっていただきたい。

車の中に間借りしているような状態なだけであって、
別に本当に車になったというわけではないのだけれど、
速人が喋るたびにCarsを思い浮かべてしまった。

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