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2017.08.06 (Sun)

恋シタイヨウ系


恋シタイヨウ系
(2016/12/19)
雪舟えま

私たちが根付くべき土地は、
生まれた場所とは別かもしれない。
それは遠い宇宙の辺境にあるのかも。

星を渡る船で降り立った場所で、
まずは何からはじめよう。


【More・・・】

「運命の恋」なんてものには、
「感動の実話」くらい吸引力を感じないけれども、
恋と言うからにはそれは「落ちる」もので替えのきかないもので、
真っ直ぐなものであって欲しいという思いはやはりある。
それらをひっくるめたときに「運命」という冠詞になるなら、
私も「運命の恋」の信者の一人なのかもしれない。
星を股にかけて恋をする人々と共にタイヨウ系を旅して、
その情熱と温かな気持ちに照れくさくなりながら、
一方でこれは恋の美しい面だけを切り取った物語だとも思っていた。
嫉妬、裏切りへの怒り、愛する者への憎悪は描かれない。
そういうものも生み出すのが恋だろうと斜に構えてから、ふと思った。
そういう醜いものが周囲で発生するとしても、
それは結局、ただの嫉妬であり怒り。
核心にあるものはそれらと癒着することのない何か、
互いを侵し合うものではない何かであり、
その核心にあるものこそ恋の本体なのではないか、と。
これも恋というものへの一種の信仰だとは思いながら、
そう考えるなら、彼らの物語は一点の濁りなく、
確かに恋の話なのだとと思う。
運命が何なのかは分からないけれど、
星を渡る恋心には大変心ときめかされた。

月で暮らし始めた盾と緑も、金星に降り立った三人も、
求めているのは巣なのだなあと思う。
安心してくつろぎ、好きな者とじゃれ合って笑い転げられる巣。
どちらも生まれた星にはそれを見つけることはできなかったけれど、
そのことは特に不幸なことなどではなく、
ただそうだったという風に描かれるのがとても心地良かった。
地球で生まれた彼らを愛していたのは、
手と手を取り合ったその相手だけだったということはおそらくないし、
月面での生活の狭間で盾と緑が地球の家族を思うように、
本人たちもそのことは良く分かっている。
置いてきたのだということから目をそむけてはいない。
でもそのことが本当に好きな人との安住の地を探す旅に、
何かしらの影を落としたりはしていないように見える。
そういう風にある彼らを身勝手だとは思わない。
何しろそうやって物事を選べる彼らを育てたのは、
かつて他人同士だった幾人かが作った巣に他ならないのだから。
生まれ育った巣を離れて自分の力で新しい巣を探し作ろうとすることは、
子供が真っ当に育った証だと、保護者の方々には納得して頂こう。

このタイヨウ系にはどの星にも生命が満ちていて、
地球の人間に近い体つきの者が多いなかでも姿形は様々に異なっている。
と同時に文明や文化もそれぞれの星に見合った形で進んでいるようで、
星間旅行が可能な技術は紹介されていても、
それを生活に取り入れるかどうかは各星、各人の裁量に委ねられている。
色恋を絡めるまでもなく、
タイヨウ系には寛容というものが広く当たり前に分布しているのだと思う。
時折現れる「兵士」という言葉や、
怪物と恋をした青年が受けた迫害を無視することはできないけれど、
そういう場所から逃げて生きる選択肢は、
どの星の住人にも用意されている。
なんだか一つの星の上で戦ったり逃げ場所を探したりしているのが、
ひどく愚かしいことのようにも思えてくる。
しかしまあ、まだ我々の地球は木星の輪を手作業で直すどころか、
自ら始めた破壊を止める術すら知らないわけで、
タイヨウ系の仲間入りするにはもう少しばかり修行が必要でしょう。
それでも脱出を望むなら、そう願う者を拾う船に見つけてもらえるよう、
精々足掻いて生きるしかない。
それはそうとあの金星行きの船なら今すぐキャドられたい。

姿形が様々で文化も色々なら、
恋の形、というか大切な者と連れ添う形も多種多様で、
男と女という二つの性の間の話の方が少ないくらい。
男二人、女三人、可変的な体の女性形二人に姉と弟。
怪物と恋に落ちて、共に生きるために生まれ直す、なんてことも起こる。
その自由さを見ているとやはり地球は狭すぎると思ってしまうけれど、
狭いのは実体のない「規範」というやつの懐であって、
地球に生きる命の在り方というものに思いを馳せれば、
規範でくくることができるものなどごく一部だと簡単に理解できる。
多分タイヨウ系はただ広いだけであって、
そこで起こる様々な交流の形は、
地中で、山で、深海で、地球のあらゆる場所で起こっているものと、
そう変わらないのだろうと思う。
別個の存在である二つの点の間にはどんな線も引くことができる。
線で繋がったなら、連なってどこへでも行ける。
それは個をもつ全ての生き物に許された選択肢なのだと思う。
宇宙の広さがこんなに頼もしかったことはない。

一人の后の心次第でどんな風にも形を変える星。
代替わりはそのまま星の代替わりになる。
そのくびきの甘い重みを捨てて、
旅立つ彼女は胸のすくような美しさだった。

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