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2017.08.11 (Fri)

世界のたね 真理を探究する科学の物語 上/下


世界のたね 真理を探究する科学の物語 上
(2016/8/25)
アイリック・ニュート

りんごはどうして真っ直ぐに落ちる?
黄金は作ることができる?
親子はどうして似たり似なかったりする?
宇宙の外には何がある?

問い続ける人類に答えるのは、
神でも真理そのものでもない。
問うも答えるも我々人類。

今日も元気に真理に挑む。


【More・・・】

科学や生物の勉強よりも数学が好きだったのは、
ごく基本的な数への理解や定義さえ押さえておけば、
理論上は自分一人で世界を掘り進むことができるからだ。
もちろん現実には人間一人の時間は少なすぎて、
とても先人たちの「無駄な」計算をやりきることはできないし、
そもそも彼らのようなひらめきは誰にでもやってくるわけではない。
それでも何の実体ももたない「1」や「0」、「i」は、
とても頼もしいもののように思っていた。
時代が移っても、場所を銀河系の彼方に移動しても、
数というつるはしは多分折れないし、変わらない。
一つ定理を理解し、一つ方程式の解法を身につけるたびに、
自分が強くなるような気がした。
世界を形作るピースの一つ一つを、
各分野で掘り出していく科学者たちを見ていて、
己のために一人向き合っていた学生の自分が恥ずかしくなった。
患者のため、商売のため、競争のため等々の理由はあれど、
科学史に名を残す偉人たちはみな必ず問いかける。
何が、なぜ、どうやって、と。
そこには、目に映る世界に向き合う外向きの視線がある。
科学の徒たるために必要なものをまた一つ提示された気がする。

最初の科学者の問いからヒトゲノム計画まで、
人類が歩んできた「科学」の道程を駆け足で追いかける。
エジソンやアインシュタインなどの超有名どころも、
メンデルやリンネなどの分野に限定的な巨人も一緒くたに、
時にには本人の性格云々の逸話を交えつつ、
その偉業をさらっていってくれるので、
科学の発展をざっと網羅するには大変読みやすく仕上がっている。
小中学生の理科の副読本にでもしたら、
少年少女の心に大変楽しい種をまくことになるかもしれない。
冒頭で宣言されている通り、
ややこしい数式や公式はきれいさっぱりなしで、
読者の想像の力に頼るように実験の数々を説明してくれる。
あれをこれに、それをあれに、という置き換えの数が多くなると、
逆に現象を思い描くのが大変なのではと思わなくもないけれど、
それでも量子力学や光の波の話を目に見える形で、
かつ、大筋で誤解を生まないように説明するというのは、
世の先生方が切望する才能が要る難事業だと思う。
人類の科学史全体をコンパクトにまとめつつ、
その事業をほぼ完璧にやり遂げたニュートさんに感服する。

過去の天才の発見が間違いだったと分かっても、
人々の認識を更新するためには大変な苦労があって、
そのために心身をすり減らしてしまうような天才もいたらしい。
ひらめきや頭脳では片付けられないその類いの仕事は、
本来科学者のすべきことではないと思う。
真理に到達するための試行錯誤以外のことは、
政治家や哲学者に任せておいた方が人類全体にとって有益だろうにと、
様々な会議、交渉、合意形成の場に、
「専門家」として連れ出される科学者を見ていて、
気の毒に思うことがある現代においてもある。
でも、「ここはどんな世界なのか」という問い科学の始まりとするなら、
かつて科学と哲学が同じ土俵に乗っていたように、
ときには科学の問いに宗教が、宗教の問いに科学が答えていたように、
世界の形を捉え、「専門家」ではない人々の問いと向き合うことが、
科学者の本来の仕事だと言うことができるのかもしれない。
何もかもに通じたオールマイティな天才なら、
科学も政治もお茶の子さいさいなのか。
でも彼の誕生を期待して待っている余裕は諸々の問題にはない。
自然の中にある問いはまだまだ尽きることがないけれども、
科学によって解決することを期待される課題は社会の中にも多くあるのだから。
科学と政治の両方の武器を持つ人物を育てるには、
あるいは科学と政治が密に連携するには、一体何が必要なのだろう。

物理学、天文学、化学に医学、生物学に数学などなど。
科学の分野は数多いので、ふとするそれぞれの繋がりを見失ってしまうけれど、
魔法や祈りが幅をきかせる異世界はまだ見つかっていないのだから、
分野の壁など所詮仮設のベニヤ板でしかないのだということを、
分野が分野に分かれる前の時代の科学を見ていて感じた。
薬が効果を見せるのは化学的な反応のおかげで、
化学物質の合成は分子の物理特性に依存している。
反応が地球の上で行われる以上星の力は無視できず、
生物の進化なしには今の地球はない。
そして科学者の体は多かれ少なかれ医学で生かされている。
科学が互いに干渉し合う様子を大変月並みな言葉でまとめるなら、
世界は一つ、ということになる。
あらゆる現象は共通の理の上で起きている。
どんな分野の住人も道具を貸し借りするような親しい隣人なのだから、
何もいがみ合うことはないのだけれど、
どんな時代でも我が我らがと挙手合戦をしてしまうというのも、
狩人たちには避けられないことなのかもしれない。
ほんの少しの発表のタイミングの差が一生を分けるのだから、
真理の狩人たちの戦場は大変に厳しい世界なのだろうと思う。
誰もがニュートンのように自宅に引きこもって、
実験と理論だけで生きて行けるわけでもないのだから。
そうしたいと願う細腕の科学者諸氏には同情申し上げる。

速度か位置、そのどちらかしか確定できない存在。
観測する我々の未熟さゆえなのか、
それとも何をどうしても両方は望めないのか。
真理の敷石はまだ足りていない。

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