2017年11月 / 10月≪ 123456789101112131415161718192021222324252627282930≫12月

2017.10.07 (Sat)

薪の結婚


薪の結婚
(2008/4)
ジョナサン・キャロル

この人生で得られるものは、
この世で使い切るより道はない。
どこへ持って行けるわけでもなく、
どこへ溜めておけるわけもない。

死が全てを断ち切るまで、
欲しがり続けるだけが人生だ。


【More・・・】

犠牲という事を目的のための捧げる供物と考えるなら、
他者を自分のために犠牲にするというのは、
大変に身勝手で罪深い行為のように感じるけれど、
犠牲にされること自体を災いとして捉えれば、
互いを食い物にし合う関係だったとしても、
それは誰か一人の罪ではないということになる。
自分の欲望のために他人を利用しておきながら、
それを災害のように考えろなんて、それこそ罪深い傲慢には違いない。
でも、自分の持ち物だけでは欲望を満たすことができないとき、
次に差し出そうと考えるものが、
自分にとって重要ではない他人の人生だというのは、
褒められたものではないとしても、
特別責められなければいけないような判断だとも思わない。
「ヴァンパイア」として転生を繰り返しながら、
他人を利用してきたという彼女の軌跡は、
ごくごく普通の人間の魂の姿のように思った。
彼女を憎む幾万の観客もスタジアムの真ん中に立てば、
多分同じように怨嗟の声を浴びせかけられることになる。
そんなに責め立ててやるなよと言いたくなった。

稀覯本を扱う古本屋として成功しているミランダには、
これと言った不満はないように見える。
やりがいを感じる仕事があり、満足させてくれる元恋人がいて、
頼れる師もいれば気のおけない友人もいる。
これ以上何を望むことがあるのかと思ってしまうけれど、
同窓会に出席したときや暴力に接したときの動揺を考えると、
しっかりと自立した女性としての姿は、
彼女が本当に望んでいる自分ではないのかもしれない。
他人に振り回されて苦労している友人を哀れみながらも、
彼女はそれほど心を預けられる相手を求めていたということなのか。
バリバリ働いて身軽に飛び回るミランダが魅力的に感じていた分、
不倫の中で子供を身ごもり、
夢のように温かな家庭の幻を見ている様子にはやや戸惑いを覚えた。
今持っているだけのものに満足できず、
もっと大きな、もっと別の形の幸福を求め続ける点は、
彼女が過去に生きた人物全員に共通していて、
何を得ても幸福を感じることができないというのは、
一種の地獄なのではないかと思う。
不死性というものの試練じみたシステムといい、
何か根性の曲がった神のようなものの存在を背後に感じてしまった。

輪廻転生の感覚になじんだ身からすると、
彼女のやっていることには何の不思議もない。
一方で「ヴァンパイア」ではない人の死生観、
生は一度きりのもので死とともに全て消え去るというそれは、
そうだと信じ切って生きるにはあまりに無慈悲だと思う。
輪廻という考え方にしても、
死の容赦なさをなんとか受け止めるための方便で、
本当に次があるという気持ちで生きている人間は、
そうはいないだろうと思うけれど、
それにしても死の後に何の「次」も設定せず、
本当にこれっきりと信じて生きることを想像すると、
不安と焦りで地に足着けるどころではなくなってしまう気がする。
もしかしたらミランダに関わった人々の憤りの大元は、
彼女がその不安を免除されているように見えることに対する、
要はやっかみなのかもしれない。
何の自覚もなかったミランダもそこに思考を巡らせれば、
他の者と同じところに辿り着いただろうけれど、
どの人生でも彼女がそれに思い煩わされていないように見えるのは、
ただ彼女がそんなことを考えていられないほど、
色々なものが欲しくて欲しくて堪らなかったからではないかと思う。
どこに持っていくこともできないものを欲しがって、
奪ってばかりの人生は、ああやはり地獄だ。

不死性を他人に渡すことができると知らされて、
過去からやってくる亡霊に追い立てられるように、
ミランダは決断することを決めた。
だからと言って、決断しないでいるという道が閉ざされたわけでもなく、
今の自分の現実にぐっと足を踏ん張って、
選ばないことを表明したとしたら、
多分未来の虚像もやがて存在感をなくしていって、
彼女はただ「知っている」という状態のままで、
自分のために他人を損ないながら、
これまでと同じように生きていっただろうと思う。
むしろ奪い続けて転生を繰り返す人生を他人に、
ましてただ一人愛すべき存在である娘に味わわせるくらいなら、
自分の魂が焼き切れるまでその役を引き受けるという選択の方が、
今のミランダらしいとさえ思ったけれど、
生まれなかった他人の子供にそれを渡そうと思うほど、
奪ってきたことに彼女が負い目をかんじていたとは意外だった。
あの日の車椅子の老女として死ぬ間際にやってきた救いは、
さながらカンダタに下ろされたクモの糸のようだった。

男に子供にと振り回され続けたゾウイだけれど、
彼女の地に足のついた軽やかさこそ、
ミランダが求め続けた幸福だったような気がする。
スポンサーサイト

テーマ : 読書感想 - ジャンル : 本・雑誌


17:46  |  翻訳もの  |  TB(0)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

Comment

コメントを投稿する


 管理者だけに表示  (非公開コメント投稿可能)

▲PageTop

Trackback

この記事のトラックバックURL

→http://acon6960.blog40.fc2.com/tb.php/715-a4824a32

この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
この記事へのトラックバック

▲PageTop

 | BLOGTOP |