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2017.11.02 (Thu)

ソラリス


ソラリス
(2015/4/8)
スタニスワフ・レム

目に映る風景の中で、
最も大きな面積を占めるものが、
あなたが相手にする生き物だ。

ソラリスを覆う海。
人にできることなど何があろう。


【More・・・】

未知との遭遇と言えば宇宙人。
宇宙の広さだとかの諸々の地球の科学を基礎に考えれば、
グレイやたこ足の宇宙人に現実味がないことは分かっているけれど、
これだけ地上を舐め尽くした人間にとっての残る未知は、
宇宙か、あとは深海くらいのものだろうと思う。
宇宙からやってきた異星の生物、
あるいは人間の方から訪ねて出会ったものとの物語は、
大抵の場合、どちらかにとって破滅的な結末を迎える。
争いや支配による関係の後に残るのは、
精々が文化面での多少の混交くらいのもの。
「異なる者」との出会いはどう足掻いてもこんな風なのか、と
やんわりと人間、いや生物というものに絶望してみることもできる。
でも、ソラリス、そこにある海の挙動によって、
そんな認識はちゃんちゃら滑稽なものだと教えられた。
「生物」として括ることができ、
争いが起こるほど、反応を理解し合えている相手は、
「異なる者」ではなく似たもの、いっそ同じものだとしても良いくらい、
ソラリスの海は圧倒的に遠い場所にある。
本当に異なる相手、相手として向き合うことすらできないものが海で、
そこには人間の持ち物は何一つ届かない。
海の傍に立ち、遠くで対称体が作られる様子が見える風景を想像したとき、
宇宙の黒いばかりの空間に目を凝らすよりもずっと重い孤独に、
息を止められた気がした。

地球から遠く離れた星のステーションで、
訳の分からない現象によって人が死んだり狂ったり。
残された少ないメンバーだけで事態の打開を図る。
SFサスペンスの王道的展開ではあっても、
「ソラリス」の印象のほとんどはサスペンスでもロマンスでもなく、
海の風景とそれに挑み続けた人類の無意味な軌跡に占められた。
対称体や非対称体の爆発的な成長と衰退の様子、
速物の動き、燐光、交互に昇る赤と青の太陽。
そして最後のシーンでケルヴィンが手を差し出したとき、
海が見せた大胆できまぐれな動き。意思の気配。
資源と人員を大量に投入し、天才たちが頭をひねり続けて、
それでも何一つ理解できないし、利用さえ叶わない絶対の拒絶。
そんなものが人が到達できる距離に発見されてしまった世界で、
学問を志す人間の気が知れない。
「内部の物理法則を狂わせる、あるいは無視する」なんて構造物は、
物理学や数学の確かさ、どこでも変わらないはずの硬度を無効にし、
ハリーのような「客」の体は化学と生物学を破壊し、
その精神性は宗教を揺るがせる。
人間が地球の上で数千年かけてせっせとこしらえたものは、
宇宙の果てのずっと手前で一人よがりの創作物に成り下がる。
ソラリス学とはつまるところ、
その絶望を否定しようと躍起になっていた人類の記録なのかもしれない。
直接的な害は全く受けていないけれど、
人類はソラリスの海に敗北したのだと思う。
あの星を破壊しろと叫ぶ人々の恐慌も分からなくはない。

ケルヴィンたちを襲った現象を海からの初めての接触だとすれば、
それがどんなに意地の悪いものに思えたとしても、
海とのコンタクトを望んでいた人々にとっては朗報と考える事もできる。
明らかに人間の脳内の情報を元に作られた「客」によって、
海が何をしようとしていたのかは分からないけれど、
少なくとも人に「興味」をもったのなら、
コミュニケーションも不可能ではないということになる。
実際悪夢そのものである「客」と同居しながらでも、
科学者たちは海から更なる変化を引き出そうと実験を行っている。
悪夢から逃れたいという思いが大きかったにしろ、
これだけ恐ろしいものを簡単に作り出す相手に対して、
たった3人で何かしようと決意することには多少狂気を感じる。
まあケルヴィンを含め、3人とも正気とは言い難い状態だったとは思うけれど、
目の前の喋る悪夢を分析し、理解しようと努める姿勢は、
混乱していても流石はソラリスに派遣されるだけの科学者だと思った。
もしも海の「実験」対象が地球のごく一般的な市民だったなら、
ステーションの内部はより激烈な地獄の様相を呈したかもしれない。
海の意図を人類の典型を知ることだと仮定すると、
この「実験」は失敗だったということになる。
この3人の理性は全く人類の中央値ではないのだから。

海と人類について考えることの魅力だけで大変なものだけれど、
「客」の内面もまた考えれば考えるほど目眩がするほど甘美な問いだった。
どんな記憶を元にして作られた「客」であっても、
それが実体をもって目の前に現れたなら、
混乱し、恐怖し、強い拒絶を示すのがおそらく人間の普通の反応で、
けれど「客」の側から見ればそれは裏切りに映る。
物理現象として理論的に考えれば、
自分はついさっきここに現れた存在であるはずなのに、
記憶は確かにそれ以前から続いたものをもっている。
にも関わらず、記憶の中心にいる人物はそれを否定するし、
体の方は意思を無視して人から外れた振る舞いをする。
ハリーが冷静であろうと努力すればするほど、
その胸中の混乱と怯えが溢れてくるようで、
死にたいと言う彼女を引き留めるケルヴィンがひどく残酷に見えた。
一人目と二人目が全く同じ精神性をもって現れたなら、
二人目の優しさは一人目のものでもあるはずで、
あの小さなポッドの中で崩壊した彼女の恐怖を思うと、
二人目を愛していると言うケルヴィンの言葉がうすら寒く聞こえた。
記憶ではなく、実体のある二人目のことを本当に思うのなら、
ケルヴィンがすべきは多分ソラリスから去ることだったのだと思う。
内心では人でもなく海とも言えない異形の彼女を受け入れられないくせに、
愛を囁いて自分をごまかす男がとても苛立たしかった。

人に寄ってくるくせに触れることは器用に避け、
飽きたかのように唐突に「実験」をやめる海。
気紛れで人見知りの子供の姿が最もしっくりくる。

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