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2017.11.12 (Sun)

私たちが星座を盗んだ理由


私たちが星座を盗んだ理由
(2014/4/15)
北山猛邦

激しくうなりを上げて回転する風車も、
適当な場所へ十分な長さのヒモを投げてやるだけで、
勝手に絡まり、絡まるうちに軋み、
やがて羽根も支柱も地に落ちる。

わずかな悪意で最大の成果を出すには、
そんな風にするのが肝要だ。


【More・・・】

場面を共有することはできても、重みは共有できない。
それが思い出というものなのだと思う。
ただの記憶よりも更に強い編集の力を加えられ、
出し入れによる手垢にまみれることで、
元の形から遠く離れていく。
思い出の内容とその変形の大きさにはあまり相関がなく、
辛い思い出も美しい思い出も同じように、
その振幅を両極へ拡大しながら別物に変わっていく。
死んだ姉と消えた星座、優しい年上の少年の記憶を、
姫子と共に振り返りながら、
これは記憶ではなく、彼女の思い出なのだと思った。
再会した「兄」との温度差に姫子は正面から向き合おうとしないけれど、
彼にとっては少年の日の恋や喪失は、
姫子ほど何度も取り出して眺めるべきものではなかった。
子供のうちに病で死んだ姉は恋しく哀れに思っても、
姫子や家族が受けた打撃を慮る心があったとしても、
それは少年が共有しなければいけないものではない。
彼にとっては「そんなこともあった」という話でしかないし、
おそらくその、「そんなこと」の方がずっと事実に近いのだと思う。
特別冷たいわけではなく、むしろ優しい少年だった彼と、
大人になった姫子の間にある距離は残酷なものだった。
姫子の思い出の美しさに酔わされた分だけ、
彼が何のこだわりもなく謎のタネ明かしをしたことが、
ラストシーンで突きつけられた現実よりもずっと堪えた。

綿菓子の中にカッターの刃が混入されているような、
大変に危険で油断ならない短編が五つ。
表題作の姫子の失望が一番優しく感じるくらいに、
童話のような物語にも、初々しい恋にも、
その甘さに微笑んだ途端ふいにぐさりとくる猛毒が含まれていて、
何度もぐう、と息を詰めることになった。
細やかな感情や思いやりは確かな悪意によって踏みにじられる。
柔らかいタッチの文章と表紙の気分で読んでいると、
とんだ痛い目に遭うこと必至。
でも、どの話でもその悪意は特別凶暴だったり、
あるいは著しく歪みを抱えているわけではないのだと思う。
それはちょっとした嫌悪や怠惰によって生まれたものであって、
主人公たちを陥れるために壮大な計略などはどこにもなかった。
にも関わらず、ぼこっと大きな穴に落ちたような衝撃があったのは、
ひとえに語り手たちの世界が自分を中心に閉じていたからで、
自分の事情、自分の感情だけで世界を見ていれば、
横から殴られたときに受け身を取ることなどできなくて当たり前でしょう。
コマが転げるように失意を味わった彼らに同情しつつ、
つい自分の背後を気にしてしまった。

「恋煩い」で仕掛けられた罠の数々は、
当事者の一人でもある少年からタネ明かしされている段階では、
線路の向こうの顔しかしらない先輩に恋するのと同じくらい、
可愛らしい、少女の恋のちょっとした暴走だと感じたのだけれど、
小瓶から出てきた言葉を読んだとき、
彼女にとって罠を仕掛けることは、
決して「少し痛い目に遭えば良い」とか、
「もしかしたら死んでも構わない」という程度のことではなく、
もっと明確な殺意だったのだと認識し直した。
少女の感情のエネルギーを舐めていたと反省の気持ちさえある。
「死ね」という言葉は重いものだけれど、
自分の頃を思い出してみれば、
子供にとっては軽い、ごく日常的な言葉でもある。
彼女がその言葉を選んだことではなく、
一番大切な友人から片時も離れることのない場所に、
自分の悪意を貼り付けて、それを日々視界に入れながら、
「親友」としての顔を全く見出さなかったことこそが、
彼女の本気を証明している気がする。
ただそれも、繰り返しにはなるけれど、
呪われる側が自分の恋に夢中であればこそのことだったろうと思う。
幼なじみの少年と親友の感情の流れも、
恋する相手の実像さえ見ようとしない鈍感さこそ、
少女は憎んでいたのかもしれない。
事件の後の三人を思うと、他人事ながら胃が痛む。

触れた者を石に変える石喰いと、
そんな化け物に襲われた村の悲劇にまつわる謎。
石像を壊したのは誰で、その意味は何なのかということに、
語り手があまり興味をもたないので、
自白の段になるまでの間に謎の存在自体を忘れかけていたけれども、
それはそれとして、探偵の話はすんなりと納得することができた。
もう戻らない者のことを忘れるか、あるいは願い続けるかは、
残された者が自分で決めれば良いのは確かで、
でも、生き返らせる術をもつ探偵のルールにも、不誠実さはない。
方法があるからと言ってそれを使うのでもなく、
願う者たちの生々しい声に押し流されるでもなく、
壊れた石像が蘇生したときに起こることを、
その生き返る当人の身になって考えるのは、
大変に強い意志を必要とする行為だと思う。
なにしろ石像は冷たいばかりで一言も発しないのに、
彼らを待つ人々は泣き叫んで縋ってくるのだから。
壊れた石像に命を戻したときの悲劇を説明したところで、
同じ事が繰り返されるのを止めることはできない。
探偵のしたことは独断専行ではあるけれど、
力をもつ者としてもは最も勇気ある選択だったと思う。
自分を守ってくれた少女に取り憑かれた男の話よりも、
探偵の死の方がずっと悲劇のように感じた。

騙していた者に騙されたからと言って、
「嘘つき紳士」が駆け込める警察は多分ない。
まあ、殺された哀れなロックマンのために、
匿名の電話か投書くらいはしてもいいかもしれない。

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