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2009.11.14 (Sat)

星を継ぐもの


星を継ぐもの
(1980/5)
ジェイムズ・P・ホーガン

星の外へ。
太陽系の外へ。
銀河の外へ。

飛び出そうとする人類が追うのは、
五万年の昔の夢。
もはや見ることも叶わない夢を
彼らは理論の下に描きだす。

【More・・・】

五万年。
生物学・地質学上はほんのついさっきらしいですが、
やはり、遠い。もう早々に想像の外になってしまう。
でも、その時代のものと思われる赤い宇宙服を着た死がいが、
月から見つかることで話が始まると、
なんだろう、もう一瞬でその外側へ飛んで行ってしまった。
空間を「落ちる」ことで進む宇宙船が出てきますが、
まさにそれに積み荷として載ってしまった感じ。
物証と理論と、それに含まれた科学者の夢のようなもの。
それらをどんどん目の前に差し出されて、
気がつけば五万年どころか、その五千倍の時間を超えている。
木星の衛星・ガニメデまで行って帰ってきた気分です。

SF、サイエンス・フィクション。
確かにフィクションなんだろうけれど、
まぎれもないサイエンスが、話を支えている。
というか、それ自体が物語になってしまっている。
しかもその範囲は、原子物理が幅を利かせるかと思えば、
言語学が一石を投じ、生物学がずずいっと前に出て、
数学もあれば地質学もあり、社会学が出張ってきたりもする。
たくさんの仮説や推論が立てられてはなぎ倒され、
その度にアリの巣をつついたように色めきたつ科学者諸君が、
なんだかかわいいとか思ってしまった。
もの凄く知的レベルが高い人々のオンパレードのはずなのに、
オモチャで遊ぶ子供を見ているような。
まあ、そのオモチャが精密かつ壮大な仕組みになっているからこそ、
遊ぶ彼らも楽しげなんでしょうが。設計者のホーガンさんに感服です。

楽しそうで、実際読んでる方も遊んでいる気分なんですが、
それでもどこかに物悲しさを感じてしまうのは、
これが書かれた時代と今のことを思ってしまうから、なんでしょう。
ソヴィエトは崩壊せず、それでも国家間の対立は解消され、
世界トップの頭脳が使われるのは、
兵器開発でも、政治的な策略の中でもなく、
月で発見された遺骸の解析と、銀河の外を目指す野望の中。
設定された年代は2029年、あと二十年ですが
2009年を生きる者からすると、どうしようもなくやるせなくなります。
それが二十年のうちに実現しそうもない、ということよりも、
かつて夢見た夢を、本気で夢見ることができない今がある、ことが。
たとえばあと100年の内に人がガニメデに立つなんて、
そんな夢は、少なくとも私には見られない。
そんな夢物語も書くことさえ、躊躇してしまう。
実現可能だと信じていたかどうかは関係なく、
そんな夢を描きだせる場所にいた作者に嫉妬してしまいます。

数週間前に読んだタイムの記事で
人類と猿の分かれ道にルーシーよりも近いと思われる化石の話がありまして
科学者たちがルナリアン・チャーリーのことを議論しているのを聞きながら、
発見に対する科学者の姿勢は、いつもこんななんだな、とか思ったり。
その化石アルディ(だったはず)に関する諸説も、
チャーリーに関する意見の対立も、ほとんど変わらない。
つまりは、新しいモノ、既存のものを打ち壊しかねないものに出会ったとき、
人の反応は、受け入れるか拒否するか、二つに一つなんでしょう。
ホーガンさんはその辺りのごたごたをこれでもかってくらい書きながら、
それでも科学を、人の知恵と技術の進歩を信じている気がする。
終盤にかけてのダンチェッカーとハントの歩み寄りが、
それを表しているようで、小気味よかった。
できれば元相棒のグレイにも、その輪に加わって欲しかったですが。

科学者たちがたどり着いた、
ダーウィンも真っ青の五万年前の出来事。
サイエンスでフィクションな、素晴らしい場所でした。
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テーマ : 読書感想 - ジャンル : 本・雑誌


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